アイヌの歴史や文化を紹介する小中学生向け副読本『アイヌ民族 歴史と現在』の記述を右派政治家が問題視し、右派政治家の主張する方向での修正がされようとしたものの、反対する住民運動が高まり修正を撤回させたことが、『しんぶん赤旗』2012年12月28日付に紹介されている。

 この副読本は財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構が発行し、北海道内の小学校4年の児童と中学校2年の生徒全員に配布されてきた。

 しかし北海道議会で2011年12月6日、自民党の小野寺秀道議が副読本について、「日本政府は、この島を『北海道』と呼ぶように決め、アイヌの人たちにことわりなく、一方的に日本の一部にしました」などの記述が不適切と槍玉に挙げた。議会質問を受け、発行者側は執筆者の了解なしに修正を決め、2012年3月27日に修正をする旨を通知した。

 さらに修正通知と同じ日の2012年3月27日、義家弘介参議院議員(現衆議院議員・文部科学大臣政務官)が、副読本が「日本は単一民族ではない」と説明しているとして問題視する質問をおこなっている。

 編集者やアイヌ関係団体などは、修正の動きを知ると反対の声を上げた。「修整通知」の撤回を求める全国署名が3万人分集まったという。

 発行者は協議の結果、修正は記述をわかりやすくするための技術的な最小限のものにとどめ、議会で問題視された箇所はそのままにして発行する方針を決めた。2012年度版の副読本は2012年10月までに児童・生徒に配布されている。

 今回の「修正」をめぐる騒動の発端となった「日本は単一民族国家」という主張は、アイヌ民族の存在などから歴史的には否定された見解であり、社会科(地理・歴史)の教科書でもすでに採用されていない。

 あえて時代遅れの内容を持ち出すことで、小野寺道議や義家氏といった当該議員が笑いものになるだけならば、ご自由にというほかない。しかし当該議員が笑いものになって済むどころか、逆に行政サイドに圧力をかけた形になって、歴史的事実に反する理不尽な修正がおこなわれそうになるところまで話が進んでしまったことは、有害と言わざるをえない。

 今回の問題はなんとか撤回できたものの、右派勢力が歴史教育や性教育などをはじめとした教育の各分野に圧力をかけ、誤った見解が押し付けられそうになったり、実際に理不尽な教材修正などに進んだ事例も、他にもある。七生養護学校事件や横浜市の歴史教育副読本の修正、「つくる会」教科書問題などが、実際に各地で発生している。こういう誤った攻撃は、学問研究や教育実践の到達点を踏まえた上で、住民世論を集めて一つ一つつぶしていかなければならない。
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