東京都杉並区立井荻中学校で『はだしのゲン』の英訳者の講演を予定していたが、前日になって校長が急きょ中止を申し入れていたことがわかった。

 講演は学校行事として予定され、校長が約2ヶ月前に共同英訳者のひとりの米国人翻訳家に依頼していた。翻訳家は事務所近くの中学校からの依頼ということもあり快諾した。

 校長は、「はだしのゲン」の英訳を通して伝えたかったこと、心に残った言葉、言葉選びで工夫した点などについて、約40分の講演を要望した。

 しかし前日になり、校長が中止を申し入れたという。翻訳家の側によると、校長は「社会の流れ・近ごろの事情・内部の決定」など曖昧な説明しかしなかったという。

 一方で校長は新聞社の取材に応じ、「都教委や区教委には相談していない。自分の判断」「『はだしのゲン』は読んだことがない。生徒も勉強していないので興味が持てないと考えた。『はだしのゲン』に特化しないでほしいと伝えたら、断られた」などと話したという。当日は、別の講師に差し替えて講演が実施されたという。

 校長の主張はとってつけたものであると感じる。校長の方から依頼しておきながら、直前になってこのような理由で断ること自体、常識では考えにくいような対応である。

 『はだしのゲン』をめぐっては、在特会など右翼が敵視して教育委員会に圧力をかける例が相次いだ。そもそも圧力をかけること自体が、何の正当な理由もない難癖でしかない。毅然と跳ね返すべきものであるにもかかわらず、クレームがあったからといってクレームの中身を吟味せずにクレームを受け入れたり、自分のところでも同種の問題に巻き込まれることを恐れて同種の対応をとるのは、結果的に自分たちの首を絞めることにもなる。

 校長の独断なのか、実際は都教委や区教委が裏で糸を引きながら隠しているのかまでは今のところわからないが、いずれにしてもこういう動きは危険なことである。

(参考)
◎はだしのゲン:英訳者の講演中止 東京の中学(毎日新聞 2013/10/5)
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