朝日新聞2013年12月28日付夕刊に、『公表せぬ 校長の決断 大阪市の学校別成績「レッテル貼り助長」処分覚悟』とする記事が掲載されていた。

 web版には掲載されず紙面のみのようだが、大阪市教育委員会が全国学力テストの学校別成績を公表する方針を決めたことに対して、ある中学校長が異を唱え、処分などの不利益を覚悟で非公表を決断したことが記事になっている。

 校長は「処分をちらつかせて公表を強要する市教委のやり方は『学校別成績の扱いは各校の判断に委ねる』とする文部科学省の実施要領に明らかに反する」などと市教委に指摘したが、市教委からは納得のいく説明は返ってこなかった。

 校長は、生活が苦しい家庭が子どもの勉強まで目を向けられない傾向がある・その様子を自らの長年の教師生活で見てきたことを指摘し、「大阪の子の学力が低いのは、経済的にしんどい家庭が多いこと抜きには語れない。この点を軽視して学校別成績を公表すれば、地域格差が歴然としてしまう。点数の低い学校の子は発奮するどころか、『どうせ自分らアホやから』と自尊感情を傷つけるだけだ」などとも話している。

 校長は「私も面倒なことに巻き込まれることは嫌だし、できれば波風立てずに定年を迎えたい。でも今ここで黙っていてはいけないと思った」として、非公表の方針を決めた。教員からは「報復として橋下市長の意向をくんだバリバリの民間人校長がきて学校を引っかき回すのでは」などと心配する声が出たものの、PTA役員からは好意的に受け止められたという。

 記事では別の中学校の校長にも取材している。別の校長は、公務員として命令に従わなければならないと思うが、教育者としてはどうしても賛成できないという心情を訴えて、結論が出せないままになっているという。

 橋下市政のもとの大阪市では、現場を支える専門家・実務者などのプロにとっては到底受け入れられないような、専門家としての積み重ねを根本から否定するようなとんでもない内容を一方的に押しつけ、従わなければ処分や配置転換などの不利益をちらつかせる恫喝が、各分野でまかり通っている。学校教育分野でも例外ではない。

 すでに県や市などの統一学力テストの学校別成績を公表している地域もあるが、「学力テストの成績が振るわなかった学校の生徒が、部活動などで他校の生徒と話す機会があった時に、学力テストの成績を理由にバカにされた」「成績の振るわなかった教科の担当教員が、地域ぐるみで責められて転勤に追い込まれた」などの弊害が報告されている。
2006年6月2日・衆議院教育基本法に関する特別委員会
笠井亮衆院議員(日本共産党) …こうして行われた学力テストによって評価がされた結果、どういうことが起きているかということなんです。
 例えば、これはその学力テストの結果を報道した新聞で、産経新聞なんですけれども、東京面にこういう形で結果が出まして、東京の区市町村の順位が一位から最下位の四十九位まで一覧で出されております。もう一つは、これは区の名前はA区というふうにさせていただきますが、A区の場合は、独自に学力テストをやりまして、そしてその結果について区のホームページで、こういう形で、小中学校別に平均の到達度のランクづけが一位から最下位までされている。学校が全部ランクづけされているわけです。
 こういう中で、都内の小中学校の教員や父母の方々から話を聞きますと、子供がクラブ活動の大会に行った、そしたら、ほかの学校の生徒から、あなたの学校は一番ばかな学校なんでしょう、こう言われてショックを受けてきた。あるいは、みんなに迷惑をかけるからテストの日は休んだという子供もいる例があって、本当に子供の心が傷つけられているというふうに思いますが、小坂大臣、東京のこういう実態があるということについては御存じだったでしょうか。
小坂憲次文部科学相(当時) 今御紹介をいただきましたような東京都の学力テストでございますけれども、東京都は東京都として独自に、児童生徒の学力向上を図るための調査という形で、先ほど御提示をいただいた、国語、算数といいますか数学、それから社会、理科、英語、英語は中学のみと聞いておりますが、及び意識調査という形で実施をしておって、十五年、十六年、十七年、それぞれ、中学二年、あるいは小学校五年と中学二年の全員とか、小学校五年と中学二年については十六、十七と継続して、経年的な変化も見るということなんでしょうが、こういうふうに実施をしていることは承知をいたしておりますし、この学力調査が子供たちの学力の向上や学校教育の充実に役立っているものと考えるわけであります。
 しかし、今御指摘がありましたように、学校別に順位づけを行って、それを公表するということについては、私は慎重であるべきだと思っております。

 全国学力テストの学校別成績公表についても同じようなことになるのは容易にわかる。公表に執着するのは教育的には有害でしかない。

 非公表を決断した校長については、今後あらゆる報復的手段が襲い掛かるのは予想がつく。また校長個人だけでなく、勤務校の学校組織にも報復的な手段が襲い掛かる恐れもある。

 黙って従っていれば経歴には傷がつかないかもしれないだろうし、面倒事には巻き込まれたくないというのは人間の心情ではあるが、それを差し引いてもあえて不利益覚悟で、おかしなことはおかしいと声を上げ、教育者としての良心を貫こうとする校長の対応を強く支持したい。
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