朝日新聞2014年8月9日(ウェブ版)に『奨学金返還訴訟、8年で100倍 機構が回収強化』が掲載されている。

 記事によると、日本学生支援機構(日本育英会)の奨学金返済を求める訴訟が急増し、2012年度までの8年間で訴訟件数が100倍になっているという。

 奨学金の滞納者の増加、および返済を求める訴訟の増加は問題はかねてから指摘され、2013年11月にも別のメディアが報じていた。また政府も、返済制度の改善の検討を始めている。

 朝日新聞の記事では、奨学金返済滞納状態とみなされて返済を求める訴訟を起こされながらも、専門家の助言によって猶予の対象者だと判明した2つの事例を紹介している。
 「どうしていいかわからず、怖かった」。札幌市の20代女性は2月、機構から訴えられた。大学時代に借りた奨学金約240万円のうち、未返済の約170万円を求められた。

 2007年の卒業後に就職し、返済を始めた。出産のために休職したが、子どもを預ける場所が見つからずに復職を断念。さらに夫の勤める会社が倒産した。11年9月、困窮を理由に返済猶予を機構に申請。認められたが、その後、毎年必要な猶予の更新手続きをしなかったとして、翌年10月から延滞扱いにされていた。

 「100万円か150万円を一括で払わないと、訴訟です」「あなたの話は聞けません。今のままなら(訴訟に)負けますよ」

 女性は提訴される直前、機構側に、そう言われた。

 だが、弁護士に相談して機構に返済猶予を改めて申請すると、困窮状態にあると認められて提訴はあっさり取り下げられ、延滞金も不要となった。女性は「自分だけでは動けなかった。支払いが猶予されなかったら、生活がどうなっていたか……」と振り返る。

 猶予の申請時、更新手続きの説明を受けたかははっきり覚えていないが、「訴訟前に改めて教えてくれれば、弁護士に相談せずにすんだのに」と思う。

 昨春提訴された名古屋市の50代男性は、20代のおいが奨学金約190万円を借りた際に保証人となった。おいが返していない約170万円を求められた。

 おいは発達障害で会話が不自由。卒業後に就職したが、まもなくうつになって仕事を辞めた。返済猶予の対象となる生活保護受給者だが、病気などのせいで、自分では猶予を申請できなかった。男性は司法書士の助言で提訴後に返済猶予を申請し、認められた。

 奨学金の問題は「借りた金は返せ」という一般的な話では収まらない部分がある。教育を受ける権利や、学んだことを社会に還元することなどを考慮すると、教育における経済負担はできるだけ小さいことが望ましい。家庭の経済状況によって、教育を諦める階層が出てはならない。

 奨学金についても、現行の「教育ローン」的な貸与制の制度がメインになっているのは、本来ならば望ましい状況ではない。諸外国では給付制の奨学金制度が主流となっている。日本でも給付制奨学金主体へと大きく制度変更していくべきではないか。

 また当面の課題についても、ただでさえ経済的負担が重い上に、不安定雇用や就職難など社会状況の悪化から返済困難に陥る事例も多い。猶予制度の周知徹底、また猶予制度そのものの拡大や弾力的運用なども求められる。
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