2020年8月4日に突然起こった「イソジン騒動」。

吉村洋文大阪府知事が同日午後、「ポビドンヨード入りのうがい薬でのうがいが新型コロナウイルスに効く」と断定するような記者会見をおこなった。

その際に「イソジン」の商品名にも触れた。

大半のマスコミは事前の周辺取材で、「イソジン」の情報を察知し、吉村知事の会見生中継を見送ったとのこと。しかしあるテレビ局のワイドショー番組が全国に生中継をおこなった。

そのことで、放送直後の短時間で、大阪府内だけでなく全国各地のドラッグストアからうがい薬が売り切れる騒ぎとなった。

2016年以降「イソジン」をライセンス販売している塩野義製薬や、長年同商品を販売していた明治ホールディングス(商標ライセンス解消により2016年以降は「明治うがい薬」と名称変更・リニューアルして販売)の株価が急騰するなどの影響も出た。インターネットでのイソジンの公式サイトや関連会社のサイトも、直後にはアクセスが集中してつながりにくい状態になっていた。

インターネット上のフリマサイトでは、知事発言の直後にポビドンヨード入りうがい薬が転売目的で大量に出品されたが、第三種医薬品のため転売は薬機法(「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。薬事法から名称変更)違反にあたるとして運営元が直後に削除した。

ポビドンヨード入りではない医薬部外品のうがい薬にも影響が出て、医薬部外品のうがい薬も売り切れが相次いだ。インターネットのフリマサイトでは転売目的と思われる「転売ヤー」が医薬部外品のうがい薬を出品して高値で取引された。

医療関係者からは、新型コロナウイルスへの効果が疑問、医療機関向けのポビドンヨード消毒薬の流通にも影響が出ているなどの危惧が出され、厳しい批判が出た。吉村発言に対して、複数の医療関係団体が抗議声明を出した。

騒ぎの背景の一因に「学校教育のあり方」と指摘

この騒ぎに関連して、「Diamond Online」2020年8月6日に『「うがい薬買い占め」で露呈する、日本の学校教育の致命的欠陥』という論考が出されている。

https://diamond.jp/articles/-/245187

うがい薬への殺到・売り切れの要因については、経済学的な視点や社会心理学的な視点に着目した分析などもある。

この論考では学校教育のあり方によって「権威のある者の発言に従う・鵜呑みにする」ような気質ができているのではないかという角度から分析をおこなっている。

OECDの調査を引いて分析している。日本では他国と異なり、「いわれたことを鵜呑みにするのではなく、物事を自分の頭で論理的に考える教育」「明らかな解決法が存在しない課題を提示する学習」が足りていないという指摘をしている。

とりわけ、学校では「ルールを守れ」などと指導されるものの、そのルールがなぜあるのかということに迫ることや、学校のあり方やルールに疑問を持つことはほとんど許されていないと指摘している。

小中高校時代にそういう根本的なことに迫った経験はほとんどない。また大学の教職課程でも、教員志望の学生は学年が上がるごとに「社会の広い関心、友人や社会との繋がりを議論するような体験」よりも「授業技術など、決められたことを堅実にこなす能力」を重視する意識を強める傾向があると、調査結果を引きながら指摘している。それらの結果、学校や親のいうことを鵜呑みにして従うような子どもが大量に育ち、「眉唾な情報やデマを鵜呑みにして買い占めに走るようなピュアな人が、日本に多い原因なのではないだろうか」と指摘している。

「素直ないい子」が成長すれば「素直な大人」になる。彼らは、「決められたルール」に従うのがデフォルトなので、自分の頭で考えて動くことができない。そうなると、テレビに出ている有名人や、政治家や役所が言うことを素直に信じて、素直に行動に移すしか道はないのだ。

学校教育のあり方は、社会のあり方ともつながってくる。

「決められたルールに従う」だけでなく、なぜそのルールがあるのかなどきちんと自分で考える能力を育成していくことが、学校教育には必要になる。

現場では心ある教員らは常に取り組んでいることではあろうが、全体的にはまだまだ十分とはいえず、制度設計上の改善も含めて取り組みを強めていくことが必要となるであろう。

自分の頭で考えることを放棄し、力があると見受けられるような他人の発言に盲従させることを旨とするような教育では、よくないことが起こりかねない。そこに科学的な知識の欠落なども加わると、デマやニセ科学・風説の流布などをしたい側にとっては容易にやりやすくなってしまうことにもなる。

イソジン騒動では、そういうことにも思いをめぐらせるような状況となっている。

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