憲法9条と自衛隊との関係に関する教科書記述について、政府は12月15日、「自衛隊について違憲であることのみを記述している教科書は存在しない」とする答弁書を閣議決定した。

 安倍晋三首相が「違憲の疑いについての記述がほとんどの教科書に載っている」(2017年11月27日、衆議院予算委員会)とする発言に対して、落合貴之衆議院議員(立憲民主党)が質問主意書を出していた。それへの答弁書となる。

 安倍首相はかねてから、憲法9条と自衛隊との関係について、中学校や高校の教科書では「自衛隊違憲説」一辺倒で書かれているかのような印象を与える国会答弁を繰り返してきた。

教科書についても、違憲の疑いについての記述がほとんどの教科書に載っているところでございまして、自衛隊員のお子さんたちもこの教科書で勉強しているわけでございます。ある自衛官から聞いたのでありますが、お子さんから、お父さんは違憲なの、こう言われたことに胸を切り裂かれる思いだったと言われていた話を私は聞いたことがあるわけでございます。
(中略)いわば教科書、ほとんど全ての教科書にこの議論が載っているのは事実であります。相当の量を割いてこの記述を書いている、いわば教科書会社も存在するのは事実であろう、こう思うわけであります。
(2017年11月27日衆議院予算委員会、長妻昭衆議院議員への答弁)


近年の世論調査でも、世論調査でも、自衛隊は合憲と言い切る憲法学者は二割にとどまり、多くの教科書に合憲性に議論がある旨の記述があるという状況があります。
 自衛隊員たちに、君たちは憲法違反かもしれないが、何かあれば命を張ってくれというのは余りにも無責任であります。そうした議論が行われる余地をなくしていくことは、私たちの世代の責任ではないかと考えております。
(2017年11月21日参議院本会議、大塚耕平参議院議員への答弁)


これは教科書の記述にも、多くの教科書、採択されている多くの教科書で自衛隊が違憲であるという記述があるという状態、これは自衛隊の子供たちも、子弟たちもこの教科書で学ぶわけでありますから、でありながら、災害等の出動、まさに命懸けで出動していく、また、急迫不正の侵害の際には命を張ってこれは日本国民を守らなければいけないというこの状況はなくしていく責任がある
(2017年5月9日参議院予算委員会、小池晃参議院議員への答弁)


 しかしこれは、実際に発行されている中学校社会科(公民的分野)や、高校公民科「現代社会」「政治・経済」の教科書の該当項をチェックすれば、違憲説と断じた教科書は存在しないことは、容易にわかるものである。

 ほとんどの教科書は、自衛隊については、政府見解では合憲とする見解をとっていると紹介する一方「違憲とする主張もある」程度に併記するにとどまり、違憲説の中身については深入りしていない。

 一方で例外として、中学校の育鵬社教科書では、合憲一辺倒のような記述になっている。

 そもそも教科書検定では、安倍内閣になってから、学説や有力な見解が分かれるものについては、政府見解に沿って記述する方向が強められている。

 安倍首相のかねてからの答弁は、不正確な印象を与えかねないものではないかともいえる。それとも、学者の間では議論が分かれる違憲説に対しては、両論併記の形ですら触れること自体を嫌っているのだろうか。

(参考)
◎政府「自衛隊が違憲とのみ記述の教科書はない」とする答弁書(NHKニュース 2017/12/15)
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