大阪市教育委員会は8月7日の教育委員会会議で、2019年度より新設開校される公設民営型国際バカロレア中高一貫校「水都国際中学校」で使用する教科書について、社会科(歴史・公民)では育鵬社教科書を採択するとした。

議案第73号 平成31年度使用教科用図書の採択について(中学校)

中学校道徳については、全校とも廣済堂あかつきの教科書を、水都国際中学校の英語については三省堂を、同校の数学については数研出版を、同校のその他の教科については市内129校の中学校と同様の教科書を採択することを承認

[大阪市教育委員会 2018年第18回教育委員会会議(2018年8月7日)より]


 大阪市では、市立中学校が前回2015年より全市1採択区域となり、市立中高一貫校については一般の市立中学校とは別枠で、各学校ごとに採択が実施される。

 2018年の教科書採択では原則として中学校道徳のみが対象となり、その他の教科については2015年に採択され2016年度より使用されているものの継続となる。一方で大阪市では水都国際中学校の新設に伴い、同校については全教科の教科書を採択することにしていた。

育鵬社教科書の問題点



 「日本教育再生機構」につながる執筆陣が中心となって執筆した育鵬社の社会科(歴史的分野・公民的分野)の教科書については、歴史修正主義的・極右的な内容が目立っている。

 太平洋戦争については「大東亜戦争」と本文中に併記した上でアジア解放の戦争かのように描く。日本国憲法は「押しつけ憲法」扱い。国民の権利と義務についてもバランスを欠く記述。「立憲主義」の説明もおかしい。など。

 一方で重要事項については記述漏れやおかしな解釈のものが目立ち、高校受験だけがすべてではないとはいえども、「受験に使えない」「高校以降の学習にも支障をきたす」とも指摘されている。

 教科書の内容そのもののひどさに加えて、育鵬社教科書を支持する勢力は政治的介入ともいえるような強引な方法で採択をごり押ししてきたという問題もある。

2015年採択:大阪市での育鵬社教科書採択策動



 大阪市では2015年の教科書採択時、大森不二雄教育委員長(当時)と高尾元久教育委員(当時)が、育鵬社の採択をリードしてきた。高尾教育委員は、育鵬社の親会社にもあたる産経新聞社幹部出身でもあることや、日本教育再生機構系の雑誌にも寄稿をおこなっていたことなどから、育鵬社の利害関係者ではないかと指摘された。

 日本教育再生機構の活動に関与していると指摘された人物が会長を務め、また業務とは無関係な民族差別的文書などが社内回覧されていることが問題になった住宅販売会社「フジ住宅」が、業務時間中に従業員を教科書展示会場に赴かせて、育鵬社教科書の採択を支持するほぼ同一内容・酷似筆跡の教科書アンケートを大量に記入して投函していたことも明らかになった。

 大阪市教委の教科書アンケート集計担当者は、集計作業中に不審点に気づいて上司に報告した。しかし上層部はそのまま集計するように指示した。その結果「アンケートでは育鵬社支持の意見が7割となった」として、教科書採択を決めた教育委員会会議にアンケートの集計結果が提出され、育鵬社教科書採択の一因となったことが指摘されている。

 一連の疑惑がマスコミなどで報道され、また大阪市会でも維新以外の各会派が一連の経過を疑問視して真相解明を求める質問を繰り返しおこなった。

 大森教育委員長・高尾教育委員とも、教育委員としての任期を残して辞任した。しかし大森氏は直後に大阪市特別顧問に就任し、教育分野を引き続き担当している。

おかしな教科書をそのまま採択するのはいかがなものか



 育鵬社教科書については、一般の市立中学校などで採択された2015年の時点で、歴史・公民ともに「2番目に評価が高かった教科書(歴史→帝国書院、公民→日本文教出版)を副読本として使用し、そのための費用は市費から出す」という異例の措置がとられた。

 これは裏を返せば、育鵬社の教科書の内容は単独で使用するに値しない代物であるということにもなるのではないか。

 そういう教科書を、新設の中高一貫校でも採択するのはどうなのか。しかも新設の中高一貫校「水都国際中学校」では「国際バカロレア」と銘打っている学校でもある。国際感覚の欠ける社会科の教科書を使わせてどうするのかとも感じる。

次の教科書採択(2020年?)に向けて



 次回の中学校教科書採択については、通常の「4年おき」のサイクルなら2019年になるが、新学習指導要領実施(中学校では2021年)が予定されている関係で、変則的に2020年採択(2021年以降新教科書使用)になるとも想定される。

 育鵬社などの教科書の危険な中身をさらに周知して世論を広げることが、重要になってくる。

 また森友学園問題にみられるように、大阪では維新政治と日本教育再生機構的な主張は親和性があることについても触れなければならない。議会や首長のあり方についても、選挙や議会質疑・要請などを通して適切な判断が求められている。
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