大阪市の総合教育会議が9月14日に開催された。吉村洋文大阪市長は席上、2019年度には試験的に、大阪府・大阪市の学力テストを教職員評価に活用することを提案し、大阪市教委事務局に対して具体的な制度設計を求めた。

[caption id="attachment_17893" align="aligncenter" width="600"]よみうりテレビ(2018年9月14日) よみうりテレビ(2018年9月14日)より[/caption]

これまでの経過



 吉村市長は2018年8月2日の記者会見で、大阪市の全国学力テストの順位が政令指定都市20都市中最下位になったとして、学力向上策として、学力テストの成績を教職員評価に反映する方針を表明した。

 しかし教職員・教育研究者・有識者・保護者・市民からは大きな批判の声が上がっていた。教職員組合や市民団体など多数の団体が抗議声明を出し、反対署名を集めて大阪市教委事務局に提出するなどしていた。

総合教育会議での議論



 総合教育会議では、大森不二雄・大阪市特別顧問(東北大学教授。2016年3月まで大阪市教育委員会教育委員長として、橋下・吉村市政の教育政策の実働部隊の中心となってきた)が、テストの得点ではなく、点数がどれだけ伸びたかの「改善度」を見るべきだと提起した。

 吉村市長は大森顧問の提起を受け、小学校6年・中学校3年のみの全国学力テストより、小学校3年から中学校3年までの各学年で実施している大阪市の統一学力テストや、大阪府が中学校1年~3年を対象に実施している「中学生チャレンジテスト」のほうが経年変化を見やすいとして、府・市の学力テストで教職員の人事評価をすることを試行したいとした。そして市教委事務局に対して具体的な制度設計を求めた。

 出席者の教育委員や有識者からは、制度設計の具体的なやり方については慎重にしてほしいという声はあがったものの、制度設計そのものに明確に反対する声はなかった様子である。

問題点



 これは、評価の基準となるテストが変わったから「方針修正」というようなものではない。テストの成績で教職員を評価するという本質的なものは全く変わっていないということになる。

 点数がどれだけ伸びたか「だけ」を見ても、点数競争という本質を変えることはできない。点数を伸ばすための「テスト対策」が横行し、学力を計測するというテストの目的が損なわれることになる。

 またそもそも学力とは、1回のテストですべて計測できるというものではない。テストという形で現れるのはごく一部にすぎない。

 「テストの点数=学力のすべて」と短絡的に扱うのは誤りである。

 またテストに現れる部分についても、子どもを取り巻く環境すべてが関わっている。特定の担当教師個人の成果として切り分けられるわけではない。

 小学校だと、現担任と前年度までの担任など、その子どもに関わった教師すべてが関わってくる。また中学校でも、小学校からの積み上げや前学年までの積み上げ、テストの対象となっていない教科なども関わってくる。さらには教科学習以外の学校での教育活動や、家庭での状況、学習塾など学校外で学べる条件があるかなどの家庭環境も関わってくる。それらを「特定の教師だけの成果」と切り分けるのは不可能である。

 子どものテストの結果によって教職員評価となると、数字だから一見客観的に見えても、実際は主観的極まりない評価が横行するということにつながるものである。

 テストの「ある時点で実施時の点数」を見ても、また経年変化での「点数の伸び」を見ても、それを教職員評価に反映する限り、主観的な評価を生み出すことには何の変わりもない。

(参考)
◎教員評価 大阪府市のテストで19年度試行 市長方針(日経新聞 2018/9/14)
◎大阪市教委、教員評価に全国学力調査の結果を反映へ(朝日新聞 2018/9/14)
◎教員評価 府市テストで来年試行(NHK大阪放送局 2018/9/14)
◎「学力の伸び」で先生を評価 大阪市長方針(よみうりテレビ 2018/9/14)
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