「川崎市教育委員会会議の録音データ情報開示請求をおこなったが、不当に開示を拒まれた」として、原告2人が約120万円の損害賠償を求めて訴えていた訴訟で、原告側は11月5日、市側に約11万円の損害賠償を命じた一審横浜地裁川崎支部判決(2019年10月24日)を不服として、東京高裁に控訴した。

 当該録音データは、川崎市教育委員会の2014年度市立高校教科書採択をめぐるもの。

 一審判決では、市職員が「録音データを消去した」と虚偽説明をおこなったことで、川崎市情報公開・個人情報保護審査会の答申に影響を及ぼしたこと、また原告が審査会での適正な審理を受ける権利を侵害したとして、その部分のみ市に賠償を命じた。

 一方で、「録音データは非開示情報にあたる」とした川崎市の主張を認め、非開示に違法性はないと判断した。

 原告側は、認定されなかった部分を不服として控訴した。

事件のきっかけとなった2014年高校教科書採択



 問題となった2014年高校教科書採択では、地理歴史科「日本史A」科目(主に近現代史)について、川崎市立高校2校が実教出版教科書を使用したいと希望した。

 高校教科書については、採択権者は教育委員会と解されているが、実質的な手続きとしては学校側の希望をそのまま追認する形になるのが通例である。

 しかし川崎市教育委員会は、実教出版教科書を希望した2校について、「日本史A」科目のみ採択を保留し、当該校に「再考」を求めた。当該校は別の教科書を採択希望として出し直した上で、次の教育委員会で別の教科書が採択された。



なぜ当時、実教出版「日本史」教科書は問題視されたのか



 当時使用されていた実教出版日本史教科書では、日本史A科目の教科書「高校日本史A(日A302)」および日本史B科目(通史)の教科書「高校日本史B(日B304)」で、国旗国歌法に関する説明で「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」とする記述があった。

 教育委員会や右派政治家がこの記述を問題視し、教育委員会が学校に対して当該教科書の採択希望を出さないように圧力をかけたり、右派政治家が政治的介入をおこなうケースが相次いだ。

 当該教科書が発行された2012年以降、当該教科書の採択希望が出た場合は拒否して他社教科書を採択するよう求めた事例が、東京都・神奈川県・横浜市などで発生した。

 埼玉県では、採択を決めた学校の校長が県議会文教委員会に呼び出される事態になった。

 大阪府では、採択そのものは認めても、当該単元の授業では教育委員会作成の教材を併用して授業をおこなうことを義務づけ、また授業計画や授業実施状況について詳細な報告を求めるという異例の条件を付けられることになった。大阪維新の会大阪府議団は「実教出版は不適切。採択すべきではない」と府教委に申し入れをおこなった。

 実教出版の当該教科書は2017年に改訂版が出された。出版社側の「自主的」判断として、問題となった記述は削除されている。

控訴審ではよりよい判決を



 川崎市教委での審議経過を疑問に思い審議過程を細かくたどろうとした原告側は、「後日まとめられる議事録だと要旨の記述だけになる。より正確な議論をたどるには録音データが不可欠」としていた。また音声データも公文書に含まれるとする見解もあり、公文書の取り扱いとしてデータ消去は不適切という主張もおこなわれた。

 一審判決では、原告側が一番求めていた部分については全面的に棄却された形にもなっている。

 控訴審に移るが、控訴審ではよりよい判決が出てほしいと願う。