大阪市会2020年第1回定例会(2・3月議会)が2020年2月7日に開会した。市立小学校の統廃合について、教育委員会が小規模校の適正規模配置計画・学校再編整備計画を決めると明記した条例改定案が提出された。
既存の「大阪市立学校活性化条例」(維新市政によって策定されたいわゆる「教育基本条例」の一つとして制定された条例)に、小学校の統廃合に関わる条文を追記する形になる。
条例案では、小学校の統廃合について、学校の適正規模を「12~24学級」と明記した(改定案第16条の2)。
この規模については、大阪市教委の審議会が以前に出した数字を反映していることになる。大阪市教委としては、1学年あたり2~4クラスあるのが適正規模だと考えているということになる。
その上で、学校の適正規模の要件を満たさない・今後も満たす見込みがないとみられる小学校を適正規模配置の対象とし、統廃合ないしは通学区域変更の手法によって、教育委員会が学校再編整備計画を「策定しなければならない」と明記した(改定案第16条の4)。
これでは、要件に当てはまった小学校は機械的に統廃合計画が出され、条例の枠組みとして無条件に進められるということが正当化されることにもなる。
保護者・住民からの意見については、「聴かなければならない」(改定案第16条の7)とは言及されている。しかしこの条文では、「統廃合には住民合意が必要」と明言してきた大阪市教委のこれまでの公式見解から大きく後退することになる。
条例の枠組みでは、統廃合など学校再編は規定事項となってしまうことから、住民からの意見聴取の機会は設けるが、アリバイ的なものとなってしまう可能性が高いということになる。統廃合計画はあくまでも教育委員会主導であり、住民の意見が反映される可能性は限りなく薄くなるものとなっている。
また、2020年1月に構想を出して2・3月議会での可決を狙い、可決された場合には2020年4月1日付で施行しようとしている。問題のある条例案を、住民に内容を周知させないまま拙速に可決させようとする点も問題であるといえる。
この条例が成立した場合、大阪市立小学校約300校弱のうち、単純に見積もれば約80校が統廃合・再編の要件に当てはまることになる。
大阪市ではこれまで、小学校統廃合についてはそれぞれの学校の状況に応じて6段階の優先順位を付けて区分していた。しかし条例案可決の場合は、機械的な統廃合・再編計画が全市的に大幅に進められるという危険性すら生じることになる。
学校の適正規模については、「多くの児童と交流する機会が必要」「いじめなどが生じた場合に、単学級だと人間関係が固定して逃げ場がないなどデメリットがあるが、人数が多いとそういったことを避けやすい」「同じ学年担当の教員が授業内容や生活指導などを協議しながら指導できる」などとして出されたものだともされる。それらの主張が誤りであるとはいえず、ある一面を反映しているものではある。
しかしその一方で、「一人一人に目が届きやすくきめ細かな指導ができる」「いじめなどもより発見しやすく、よりていねいな指導が可能になる」などの少人数指導によるメリットを指摘する声もある。学級規模・学校規模については、個別の事情を無視して機械的に線引きできるような内容ではない。
それをあえて機械的に線引きして統廃合を条例的にも進めようとするのは、教育委員会の都合を押しつけることにもなり、教育予算や教職員を減らし、また学校用地を減らすなどのことにつながりかねないという危惧も生まれてくる。
また児童・保護者・地域の側からみれば、学校統廃合によって学校が遠くなるなど、通学が大変になるということも懸念される。また地域のまちづくりの面でも、近所に学校がないことで人口減少・児童減少に拍車がかかる、災害時の避難場所ともなる学校がなくなることで万が一の際の不安が増大するなどのことも懸念されることになる。
これらの地域住民からの懸念を教育委員会が完全に無視・軽視して、一方的な施策をトップダウン的におこなおうとする。――そのようなことを正当化するような条例案を作るのは、おかしいのではないか。
生野区では、区西部の12小学校を4つの小学校ないしは義務教育学校へと統合改編する構想が行政主導で出されている。一方で、地域からは行政主導の拙速な案に反対や疑問の声が強く出て、一度立ち止まった上で慎重な審議を求める声が強まっている。
生野区の関係地域からは、当該地域での計画見直しを求める陳情書を繰り返し提出し、今回議会にも提出している。この条例案では、現に統廃合構想に直面している生野区での「慎重な審議」「住民合意形成」を求める声を封じるとも受け取れるものとなっている。
またほかの地域についても、統廃合を含めた学校適正配置について、行政側(大阪市教委・地元区役所)と地域住民との協議を慎重に進めている地域もある。大阪市では「住民合意形成が重要」としてきたものの、条例が成立した場合はそのことが反故にされることにもなる。
学校統廃合を条例で規定し、行政主導でトップダウン式に進めることを明文化するという手法は、全国的にも異例のことだという。
今回の条例案は、住民の声を聴かない・現状を無視して一方的なことを強権的に押しつけるなど、維新の大阪市政のあり方が顕著に現れた事象の一つだとも感じる。
このような条例案が可決されると、大阪市の学校教育だけでなくまちづくり全般についても、重大なダメージが出ることになることが見込まれる。
2020年2月17日に予定されている大阪市会教育こども委員会で、この条例案が審議されることになっている。審議の動向を注視したい。
既存の「大阪市立学校活性化条例」(維新市政によって策定されたいわゆる「教育基本条例」の一つとして制定された条例)に、小学校の統廃合に関わる条文を追記する形になる。
条例案の問題点
条例案では、小学校の統廃合について、学校の適正規模を「12~24学級」と明記した(改定案第16条の2)。
この規模については、大阪市教委の審議会が以前に出した数字を反映していることになる。大阪市教委としては、1学年あたり2~4クラスあるのが適正規模だと考えているということになる。
その上で、学校の適正規模の要件を満たさない・今後も満たす見込みがないとみられる小学校を適正規模配置の対象とし、統廃合ないしは通学区域変更の手法によって、教育委員会が学校再編整備計画を「策定しなければならない」と明記した(改定案第16条の4)。
これでは、要件に当てはまった小学校は機械的に統廃合計画が出され、条例の枠組みとして無条件に進められるということが正当化されることにもなる。
保護者・住民からの意見については、「聴かなければならない」(改定案第16条の7)とは言及されている。しかしこの条文では、「統廃合には住民合意が必要」と明言してきた大阪市教委のこれまでの公式見解から大きく後退することになる。
条例の枠組みでは、統廃合など学校再編は規定事項となってしまうことから、住民からの意見聴取の機会は設けるが、アリバイ的なものとなってしまう可能性が高いということになる。統廃合計画はあくまでも教育委員会主導であり、住民の意見が反映される可能性は限りなく薄くなるものとなっている。
また、2020年1月に構想を出して2・3月議会での可決を狙い、可決された場合には2020年4月1日付で施行しようとしている。問題のある条例案を、住民に内容を周知させないまま拙速に可決させようとする点も問題であるといえる。
悪影響が懸念される
この条例が成立した場合、大阪市立小学校約300校弱のうち、単純に見積もれば約80校が統廃合・再編の要件に当てはまることになる。
大阪市ではこれまで、小学校統廃合についてはそれぞれの学校の状況に応じて6段階の優先順位を付けて区分していた。しかし条例案可決の場合は、機械的な統廃合・再編計画が全市的に大幅に進められるという危険性すら生じることになる。
学校の適正規模については、「多くの児童と交流する機会が必要」「いじめなどが生じた場合に、単学級だと人間関係が固定して逃げ場がないなどデメリットがあるが、人数が多いとそういったことを避けやすい」「同じ学年担当の教員が授業内容や生活指導などを協議しながら指導できる」などとして出されたものだともされる。それらの主張が誤りであるとはいえず、ある一面を反映しているものではある。
しかしその一方で、「一人一人に目が届きやすくきめ細かな指導ができる」「いじめなどもより発見しやすく、よりていねいな指導が可能になる」などの少人数指導によるメリットを指摘する声もある。学級規模・学校規模については、個別の事情を無視して機械的に線引きできるような内容ではない。
それをあえて機械的に線引きして統廃合を条例的にも進めようとするのは、教育委員会の都合を押しつけることにもなり、教育予算や教職員を減らし、また学校用地を減らすなどのことにつながりかねないという危惧も生まれてくる。
また児童・保護者・地域の側からみれば、学校統廃合によって学校が遠くなるなど、通学が大変になるということも懸念される。また地域のまちづくりの面でも、近所に学校がないことで人口減少・児童減少に拍車がかかる、災害時の避難場所ともなる学校がなくなることで万が一の際の不安が増大するなどのことも懸念されることになる。
これらの地域住民からの懸念を教育委員会が完全に無視・軽視して、一方的な施策をトップダウン的におこなおうとする。――そのようなことを正当化するような条例案を作るのは、おかしいのではないか。
学校統廃合構想が浮上している地域ではさらに深刻に
生野区では、区西部の12小学校を4つの小学校ないしは義務教育学校へと統合改編する構想が行政主導で出されている。一方で、地域からは行政主導の拙速な案に反対や疑問の声が強く出て、一度立ち止まった上で慎重な審議を求める声が強まっている。
生野区の関係地域からは、当該地域での計画見直しを求める陳情書を繰り返し提出し、今回議会にも提出している。この条例案では、現に統廃合構想に直面している生野区での「慎重な審議」「住民合意形成」を求める声を封じるとも受け取れるものとなっている。
またほかの地域についても、統廃合を含めた学校適正配置について、行政側(大阪市教委・地元区役所)と地域住民との協議を慎重に進めている地域もある。大阪市では「住民合意形成が重要」としてきたものの、条例が成立した場合はそのことが反故にされることにもなる。
異例の「トップダウン」条例案
学校統廃合を条例で規定し、行政主導でトップダウン式に進めることを明文化するという手法は、全国的にも異例のことだという。
今回の条例案は、住民の声を聴かない・現状を無視して一方的なことを強権的に押しつけるなど、維新の大阪市政のあり方が顕著に現れた事象の一つだとも感じる。
このような条例案が可決されると、大阪市の学校教育だけでなくまちづくり全般についても、重大なダメージが出ることになることが見込まれる。
2020年2月17日に予定されている大阪市会教育こども委員会で、この条例案が審議されることになっている。審議の動向を注視したい。