奈良県教育委員会は2020年5月20日、県内の中学校3年の生徒約1万人と全中学校の校長を対象にアンケートを実施し、公立高校入試での出題範囲を検討する方針を発表した。新型コロナウイルスによる休校の影響で、各中学校の授業進度にばらつきがでていることを背景にしたもの。

生徒向けのアンケート調査では、「出題範囲を従来どおりにしたとき、不安を感じるか」「不安を感じる教科」などについて聞くとしている。また校長向けの調査では、出題範囲削減の是非について問うなどとした。

高校入試については、通常は中学校3年修了までの全課程について出題されることになる。しかし新型コロナウイルスの影響で、3月から休校が最大で3ヶ月間にわたって続いていることになる。

その分授業の遅れが生じ、学校が再開された場合でも教育課程の問題、および入試への影響の問題が浮上している。授業進度については、教科書会社などは標準的な進度モデルを想定して年間計画案を示しているものの、平時でも各学校の状況によってばらつきがでることもある。また休校の期間・状況によっても、自治体や学校ごとに差が出ることにもなる。

文部科学省は国レベルの方針としては、高校入試の出題範囲や内容、出願方法について「特定の受験生が不利にならないよう、必要に応じた適切な工夫を講じてほしい」とする通知を出している。各都道府県ごとに施策が具体化されることになる。

一方で文部科学省は、現1・2年については次年度への繰り越しなどで遅れを取り戻すことは認めたものの、3年については高校課程への繰り越しには言及せず、授業の遅れなどに対応した学習指導要領の特例的なスリム化などの施策にまでは踏み込んでいない。各地の教育委員会では、授業の遅れについては夏休みの短縮や土曜授業・7時限授業などでおこなう方針を示したところもあるとされる。

このため、学校が再開されても詰め込みや長時間授業で負担が強まるのではないかとする危惧もされている。さらには現3年生については、授業の負担や、授業進度を上げざるをえないことなどによって学習状況にも影響が出て、高校入試にも影響を与えるのではないかとも危惧されることになる。

一部からは、入試での出題範囲の縮小などを求める声も出ている。どさくさ紛れで出てきた感が強い「9月入学」案も、現時点での移行では長時間授業等とは比較にならないレベルの混乱を生むおそれが高いとはいえども、授業進度の遅れなどを背景にして俎上に上がるようになったものではある。

まずは何よりも、生徒の不安を適切に把握した上で、解消できるための適切な施策を検討することが必要になる。受験に臨む生徒からも要望をつかむとする、奈良県教委のアンケート方針は支持できるものである。アンケート結果を基に、よりよい施策を検討してほしい。

(参考)
◎奈良 入試範囲で中3アンケート(NHKニュース 2020/5/20)
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