日本教育学会は2020年5月22日、「9月入学」に関する提言書を発表した。

提言は、2020年5月11日に出された「声明」をさらに深化させた内容となっている。

新型コロナウイルス問題を契機に、政治主導で「9月入学」への拙速な変更の動きが出たことについて、警鐘を鳴らすものとなっている。

提言の内容


提言は、大きくは以下の2点について検討している。

  • 「9月入学」移行に伴って生じる諸問題の検討。

  • 新型コロナ問題で学校にも影響が波及している元での学力保障・学校体制づくりなどの必要な取り組みの提案。


「9月入学」移行に伴って生じる問題としては、1年半の月齢の児童生徒が集中して急増する学年が生じることで「保育所の待機児童の問題」「幼稚園・保育所でのクラス児童の分断」「発達差への配慮やカリキュラムの見直し」「特別な支援を必要とする児童生徒が後回しになりかねない懸念」「進学・就職での競争激化の懸念」などが指摘された。また、会計年度と採用年度のずれによる弊害や、予算措置が必要なことでのコスト増、家庭の教育費の増加、4月~9月の移行期の家計負担や学費負担の問題なども指摘した。

今回想定している全学年一斉の切り替え・後ろ倒しは、過去に文科省が検討した「新旧制度を併存する移行期間を設けながら、段階的に移行する」方式とも異なることを指摘している。

その上で提言では、9月入学は十分な効果が見込めないだけでなく、かえって問題を深刻化させるおそれがあると指摘した。

その代わりに効率的で効果的な財政支出をおこなうことで、実効的で持続的な学力保障を進めることができると提言している。

具体的には「オンライン学習体制の構築」「学習の遅れ対策として、学習指導要領の柔軟な運用と学びの精選、リメディアル教育実施などでの学力保障」「学力格差拡大の不安への対策として、教員や補助指導員などの充実など学習指導体制の強化」「子どもたちのケア体制の構築、充実」「入試や就職への配慮」などの案を提起した。

私見


この提案は、全く同意である。

「9月入学」への移行という一般的な話については、研究する事自体までは否定するものではない。

しかし今回突然浮上した「9月入学」構想については、そういう一般的・理論的な研究の話とは全く異なるところから生じたものである。新型コロナウイルス問題の深刻化による臨時休業が続いたという非常事態のもと、一部ポピュリスト的な政治家の人気取り目的によって突然持ち出されたものである。しかもその手の政治家は、「2020年度から後ろ倒しにすればすべて問題解決」かのような安易なミスリードまでしている。

今回の「9月入学」については、移行に伴う具体的な工程やデメリットなどを十分に検討していないもとで、「授業の遅れ」「入試への不安」などの児童生徒や保護者の不安に乗じて持ち出されたものだと言わざるをえない。このような状況の下で移行を強行されると、授業の遅れや入試どころではない大きな混乱と損害が、学校だけでなく社会のあちこちに生まれることになる。

もっとも、一部政治家の動きと、「授業の遅れ」「入試への不安」などへの児童生徒・保護者の思いは、明確に分けて扱う必要がある。

今回の提言は、授業の遅れ・学力問題への不安、入試への不安などについても、ていねいに解決する方向性のものとなっている。安易な「9月入学への変更」に頼らなくても、授業の遅れ問題の解決、学力の保障、学校づくりの問題、入試への対応などはできるということをていねいに示している。

安易な制度いじりではなく、地に足を付けた方向性での学力保障や予算措置によって、問題を解決していく必要がある。
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