新型コロナウイルス問題による休校が長期化したことを受けて浮上した「9月入学」制度について、政府与党は2021年度の導入を見送ることを提言した。

この問題では、小池百合子東京都知事や吉村洋文大阪府知事など一部の知事が、休校長期化に伴う授業の遅れを解消するなどとして、2020年度の学年を「1年半」とする形で9月入学に移行する案を提唱していた。

安倍首相は国会答弁で「前広に検討する」として、選択肢として排除しないという姿勢を示していた。

一方で教育研究者や学校現場、多くの市区町村長からは、「制度変更は課題が大きすぎる」「少なくとも、この時点での拙速な変更をすべきではない」とする指摘が出されていた。

自民党のワーキングチームは2020年5月27日、課題が多く時期尚早だとする見解をまとめた。公明党も同日までに、「拙速な導入をおこなう妥当性は認められない」「将来的な導入の是非については、時間をかけた国民的議論が必要」とする見解をまとめた。

また共産党や立憲民主党など野党も、新型コロナウイルス問題対応としての拙速な導入には否定的な見解を示していた。

吉村洋文大阪府知事や松井一郎大阪市長が率いる維新は、拙速な「9月入学」の実施を求め続けている。

この時点での9月入学への変更は、学校在籍期間が延長した分の学費・生活費負担をどうするのか、就職予定の生徒・学生が得られるはずだった収入がなくなりかねない、入試への影響、就職活動・採用への影響、会計年度とのずれ、1学年が極端に多くなる学年がでてそれは大学卒業まで影響が出かねない、玉突き的に保育所の待機児童問題にも波及する、などの問題が指摘されている。

将来的な移行についてはともかく、少なくとも現時点で移行するべきではない。現時点での移行が見送られることになったのは、適切な判断だといえる。

休校が続いたことでの学力や入試への影響を不安視し適切な対応策をとってほしいというのは、当事者にとってはもっともな願いであろう。それについては、学校だけでなく社会のあちこちに多大な影響を与える「今年度を1年半に延長することによる、拙速な9月入学導入」ではなく、カリキュラムの柔軟化・精選化、入試の出題範囲や評価方法への配慮など、他の方法でていねいに不安を解消する施策をとるべきだと考えられる。
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