フジ住宅(大阪府岸和田市)の従業員が「職場で民族差別的な文書を配布される、大阪市の教科書展示会に動員されて育鵬社を支持する内容のアンケートを提出させられるなどしたことは違法」として訴えていた「ヘイトハラスメント」訴訟で、大阪地裁堺支部は2020年7月2日、原告側の訴えを認め、フジ住宅と同社会長が連帯して原告側に110万円の支払いを命じる判決を出した。

この問題では、育鵬社教科書執筆陣の母体の「日本教育再生機構」にも関与する同社会長の主導で、少なくとも2013年頃から、業務上の関連性もないのに職場で民族差別的な文書を回覧させられるなどしたと訴えていた訴訟である。

またこの訴訟の中で、2015年度大阪市中学校教科書採択の際、フジ住宅が会社として従業員を教科書展示会に動員し、育鵬社教科書採択を求める内容の回答を書くように求めたことも明らかになった。その際に備え付けのアンケート用紙を数十枚単位で会社に持ち帰り、ひな形に沿って会社で記入して後日再び同じ会場に行かせて投函させたことも明らかになっている。

大阪市教育委員会は、2015年の教科書展示会でのアンケート集計結果について「育鵬社支持が7割にのぼった」と発表した。しかし集計の際、担当者が「酷似した筆跡で同じ内容の回答が20枚以上あった」ことに気づいて集計チーム責任者に相談したが、責任者はそのまま集計するよう指示を出し、教育委員会会議に提出していたことが明らかになった。また育鵬社関係者がフジ住宅関係者に対し「アンケートが多いほど採択に有利になる」という情報提供をおこない、それをフジ住宅が従業員に社内報で回していたことも明らかになっていた。

このことは不正だと疑われ、大阪市会でも問題になっていた。

判決では、教科書展示会での動員についても違法性を指摘したとのこと。



民族差別的とされる回覧文書の内容も、ここで引用するのも躊躇するようなとんでもない内容である。決して「表現の自由」などにはあたらない。判決では、回覧文書は個人に向けられたものではないが差別をあおるとして違法性を認定したとのこと。さらに原告側が提訴後、会社が原告を非難する文書を社内で配布したことについても違法性を認定した。

現時点で伝えられている内容は速報的だとはいえども、根幹的な内容についてはきちんと認定された様子。あまりにもひどい内容の差別が裁判で認定されたことは、とりあえずほっとした。

フジ住宅は控訴を断念し、対応を改善することを強く求める。

教科書採択にも密接な関係


その一方で、2015年当時にフジ住宅や育鵬社と事実上歩調を合わせた形で、不正とうかがわれる形で、2015年度に育鵬社教科書を採択した大阪市教育委員会の対応も問題になってくる。

差別・ヘイトが背後にある勢力が無理やりごり押しした教科書を不正な方法で採択したということは、大阪市教育委員会としても責任は免れない。

大阪市では、育鵬社教科書は2015年8月の教育委員会会議で採択され、2016~19年度に使用された。そして2019年の教育委員会会議では、学習指導要領改訂に合わせた新教科書が2020年に出る関係で「継続採択」となり、合計5年間にわたっておかしな教科書を使わされている形になっている。

そして今年2020年は、中学校教科書の採択変えの年にあたっている。5年間大阪市の子どもにおかしな教科書を与えてしまったこと、現場の社会科教師に不要な負担をかけ、保護者や市民を悲しませてきたこと。そういう苦しみは再び繰り返してはいけない。
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