2020年の中学校教科書採択が各地で進んでいる。中学校社会科では、歴史的分野・公民的分野について、育鵬社教科書の問題が大きな課題となっている。

2020年にはこれまで育鵬社を採択していた自治体で、育鵬社から他社に採択替えとなるニュースが相次ぎ、歓迎されている。

8月4日には横浜市で、これまで採択されてきた育鵬社が不採択となり、大きく報じられた。横浜市での採択替え・育鵬社阻止は一つの山となったような形となっている。

まだ採択のための教育委員会会議が開かれていない地域もあり、それらについても引き続きよい結果が出るよう願いたい。

「育鵬社離れ」の理由?


一方で、各地で「育鵬社離れ」が相次いだ理由については、今後詳細な検討と分析が必要になってくるかもしれない。

朝日新聞2020年8月5日付の記事では、教育学者の浪本勝年・立正大学名誉教授が気になる指摘をおこなっている。

1997年に「新しい歴史教科書をつくる会」が結成され、従来の教科書を「自虐的」と攻撃してきた。第一次安倍政権のもとでの2006年の改正教育基本法や、第二次安倍政権での2014年の教科書検定基準改訂によって、政権側の意向に沿った記述が求められるようになったことを背景に、「自虐的」とされた記述が減り、以前と比べて教科書間の差がなくなったと分析している。そのことを背景に、右派的な教育委員が育鵬社を無理して選ぶ必要がなくなったのではないか。――浪本氏は大筋でこのような分析をおこなっている。

浪本氏の指摘通りなら、あまりにも露骨な記述をおこなった育鵬社の採択阻止自体は喜ばしい一方で、単純に喜ぶだけではいられないという課題も出てくる。

当ブログでは現時点では、1990年代後半~2000年代初頭からの約20年間の教科書について、時系列的な記述変化を詳細に分析しているわけではないので「そういう指摘がされている」という程度にとどめる。

とはいえども、断片的な記憶からは「いわゆる右派系教科書以外の教科書会社発行のものにも、おかしな記述があったと指摘された。教科書の記述の内容で論争があった」「育鵬社以外でも、右派勢力から一定の人気を集めた教科書があった」という心当たりはいくつかある。

この視点については、追って詳細に調べたい課題ではある。

教科書採択の日程


名古屋市では当初予定されていた採択日には結論がまとまらず、8月7日午後3時より歴史・公民のみ引き続いて審議がおこなわれる予定となっている。情報によると、育鵬社を強力に推す教育委員が複数いて、育鵬社新規採択の危険性が指摘されているとのこと。

大阪市では日程は未発表だが、8月下旬にも採択のための教育委員会が開かれるとみられる。

また市長が「教育再生首長会議」会長でもある大阪府東大阪市では、8月24日に採択予定となっている。

このあたりも大きな山場になるとみられる。またそのほかの地域についても、結果に注目していく必要がある。
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