名古屋市教育委員会は2020年8月7日の教育委員会会議で、中学校社会科歴史・公民教科書の採択を審議した。

歴史は教育出版、公民は東京書籍となった。いずれも現行採択の出版社のものを引き続き採択することになる。

育鵬社が採択されるおそれがあると危惧されていたが、育鵬社は不採択となった。

審議の経過


同市での教科書採択は、10教科・16種類の審議を3日間の日程に分けておこなった。しかし社会科歴史・公民の2分野については、本来の審議・採択日の7月29日には結論が出なかったとして、この日の会議に持ち越されることになった。

7月29日の会議では、教育委員5人中2人が育鵬社を強く推していた。

名古屋市では、河村たかし市長が南京事件(南京大虐殺)の否定論者であることなど、右派的な考えを持っている。前回2015年の時点でも、育鵬社採択が危惧されていたが、不採択になった経緯がある。

2020年には、河村市長も旗振り役になる形で、極右派が「あいちトリエンナーレ」の展示内容を口実にした「大村秀章愛知県知事リコール運動」を仕掛けている状況もある。リコール支持派と育鵬社支持派が重なり合うような形で、育鵬社教科書採択要望の動きが前回以上に強まっていたともされる。

教育長が仮に育鵬社に票を入れた場合、賛否が3対3の同数となり、賛否同数からの教育長裁定で育鵬社が採択されるおそれがあるとして、危惧が高まっていた。

朝日新聞の報道によると、8月7日の会議では、以下のような形になったとのこと。
前回の協議で育鵬社版を推した委員2人はこの日、「歴史教科書は近現代史についてしっかりとポイントを押さえていくべきだ」「日本という国に誇りや愛着を持てるような教育をしてほしい」などと述べたうえで、他の3委員の意見に賛同。現在使用している出版社を全会一致で選んだ。

(朝日新聞 web版 2020年8月7日『名古屋市、育鵬社版の教科書を選ばず 最後は全会一致』)

ギリギリのところで押しとどめ、持ちこたえた形になっている。

名古屋市での状況が伝えられ、市民から危惧の声が上がっていたことも、押しとどめた背景にあったのだろうか。また横浜市など他地域で育鵬社が不採択になったことも背景となったのだろうか。

今回の件についてはほっとした。その一方で、今のままだと、4年後の2024年と見込まれる次の教科書採択ではより悪くなったり、最悪の結果を避けられたとしても再び冷や汗をかいたりする状況が生まれかねない。そういう心配をしなくてもいいように、大もとから改善していく取り組みも並行していく必要があると考えられる。

他地域でも続きたい


教科書採択の審議は、8月いっぱいかけておこなわれることになっている。

大きな採択地区としては、大阪市や大阪府東大阪市などといった育鵬社が採択されてしまっている地域では、次回採択はこれからとなっている。

また石川県や愛媛県などのいくつかの自治体、いくつかの県の県立中高一貫校などの結果も気がかりとなっている。

「育鵬社離れ」の傾向は全国的に進んでいるとはいわれるが、動向には気を抜けない状況となっている。引き続き動向を注視したい。
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