西日本新聞2020年8月17日付に『「戦争は“おとぎ話”のよう」実感持てない学生も…揺れる平和学習、学校現場の模索』が掲載されている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a650fa82061b6b03705fdb70bf6a14dbdd2279e5

平和学習についての学校現場での模索についてリポートしている。

時の経過により戦争体験者が少なくなっていることを背景に、2000年代頃からはこどもたちが家庭などで話を聴く機会が少なくなったり、ドキュメンタリーなども「怖い」という反応なども散見するようになったという。

「実感を持てない」学習


現代のこどもたちにとっては「実感を持てないもの」となり、近現代史も現代に直接つながる意識というよりは受験のための暗記となっている傾向も出ているとされる。

記事では、このような話が紹介されている。
 「戦争は“おとぎ話”のように思っていた」。関東の私立大。社会科の教え方を学ぶ授業で、教員を目指す学生の1人がそんな感想を寄せた。何不自由ない環境で育ち、あえて「暗い歴史」に目を向けることはなかった。高校で近現代史を暗記したのは、志望大に合格するため。戦争や平和について深く考えることはなかったという。

政治的な干渉・介入の強まり


さらに現場の教員にとっても、深く踏み込んだ近現代史や平和学習などは近年やりにくくなっている状況もみられる。

記事では福岡県内の学校で起きた出来事についても紹介している。
 福岡県内の公立中では10年ほど前、沖縄戦を取り上げた授業に保護者から苦情が寄せられた。教員が作成した資料に「日本軍は住民を守らなかった」という記述があり、「守った日本兵もいる」との指摘が教育委員会にあった。教員は「配慮が足りなかった」とする始末書を提出させられた。

同校の関係者は「あの件以降、校長が事前に資料をチェックし、授業後に回収している。生徒が家庭で戦争について話題にする材料がなくなった」と語る。

県内の別の公立中に勤めるベテラン教員の女性は最近、日本軍による中国侵略を学習テーマにしようと同僚に提案。同僚はこう断ったという。「このご時世だし、あんまり触れん方がいいっちゃない」

こういった歴史教育・平和学習への圧力は、1990年代後半以降の20数年間で強まっているようにも感じる。

「新しい歴史教科書をつくる会」が1997年に結成され、従来の歴史教科書を「自虐史観」などと攻撃して2000年代には一大勢力となった。さらには発行主体元こそ変わりながらも、極右的なイデオロギーに沿った歴史教科書を発行し続けている。

現「つくる会」に直接つながる系譜だけでなく、日本会議・日本教育再生機構などといった現時点では2000年代の「つくる会」を上回る一大勢力となっている系譜に属する右派も、歴史教育や平和学習、教科書問題などへの介入を図り続けている状況もある。

太平洋戦争・沖縄戦・南京事件など近現代史、特に平和学習ともかかわるような内容を中心に、教科書の記述、教員が独自作成したプリント、副読本、授業内容などに、政治的な介入がおこなわれて萎縮させられるケースも、記事で紹介された福岡市の事例だけでなく全国的に起きている。

センター試験出題訴訟(2004年)


2004年度大学入試センター試験の「世界史」科目で、日本統治下の朝鮮での出来事として正しいものを選べという問題で、「第二次世界大戦中、日本への強制連行がおこなわれた」という選択肢を正解にしていたことに対し、受験生が「強制連行は確定事実ではなく、当該設問に正解は存在しない。センター側は問題不備での救済もしなかった。誤った出題で精神的苦痛を受けた」と主張するなどして訴訟を起こす(原告側請求棄却の判決)。「新しい歴史教科書をつくる会」なども原告と同様の主張をおこなう。

『はだしのゲン』撤去騒動(2012年~14年)


東京都や島根県など各地で、学校図書館の蔵書として配架されている『はだしのゲン』を回収・撤去するよう求める請願・陳情が複数出される。島根県松江市では、2012年に在特会に関係する人物からの要望を受け、同書を一時閉架措置にしていた。大阪府泉佐野市では2014年、「市長の意向」として市立小中学校から同書を回収したことが判明。

平和学習副読本回収(2014年)


大阪府松原市立小学校で、修学旅行に向けた事前学習として使用した平和学習副読本について、内容が「不適切」だとして、学校側の判断で回収していたことが、2014年12月に新聞報道される。

当該教材には沖縄戦「集団自決」に関する記述があり、報道の数ヶ月前には、右派国会議員が国会質疑で当該教材を名指しして内容を非難していた。

「従軍慰安婦」授業を大阪府議が攻撃(2018年)


大阪府吹田市立中学校の社会科教員が「従軍慰安婦」をテーマにした授業をおこなったとして新聞報道されたことに関連して、維新と自民の府議会議員が問題視し、2018年12月に府議会で攻撃。大阪府教委は「調査する」と表明。

これからの平和学習


直接の体験者が少なくなっていることに加え、政治的な意向で触れさせないようにする傾向が強まっていることなども、影響を与えている。

このような状況のままでいいとは思えない。

市民の世論でも後押しし、現場の教職員の創意工夫が少しでもできるような状況を作っていくのが重要ではないかと感じる。
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