広島県呉市教育委員会は2020年8月21日の教育委員会会議で中学校教科書採択を実施した。2011年・15年・19年に採択されてきた育鵬社の歴史・公民の教科書を不採択とし、歴史・公民とも東京書籍に採択替えした。

育鵬社の教科書は、内容に問題が指摘されてきた。復古主義的なイデオロギーを押しつけるような一方的・一面的な記述も問題視されてきた。さらには、重要な学習事項の記述がなかったり一面的な解釈によるもので、中学校での授業だけでなく高校入試や高校以降の学びに支障をきたす点も指摘されている。

前回2015年採択時のできごと


呉市では前回2015年採択の際、教科書採択選定資料をずさんな方法で作成し、歴史・公民教科書あわせて1054か所の誤りがあったことも指摘された。これは単純なミスではなく、育鵬社採択に有利になるように資料を水増し操作した意図的な不正ではないかとも疑われた。教育委員会に提出された資料では育鵬社がもっとも評価が高いとされていたが、修正後の資料では評価が逆転し、東京書籍の方が総合所見の評価は高かったとされる。

前回採択をめぐる疑惑は行政訴訟にもなった(住民側の敗訴判決が確定)。

2016年3月には、呉市での教科書採択疑惑について国会でも取り上げられた。大平喜信衆議院議員(当時。日本共産党)が2016年3月9日の衆議院文部科学委員会で取り上げ、馳浩文部科学大臣(当時)は「できる限り情報が公開されることがやはり当然だ」「(資料の多数の誤りは)望ましいものではない」「呉市教育委員会において説明責任を果たしていただく。しっかりとした対応が行われることを期待したい」などと答弁した。

呉市だけではなくほかの地域でも全国的に、育鵬社の採択には、不正もしくは不正を疑われるような強引な手法が、ほとんどの場合セットでつきまとっている(2011年の沖縄県の八重山教科書問題、2015年の大阪市教科書採択問題など)。

市民の粘り強い取り組みの成果


呉市では2011年以降、2015年度教科書採択をめぐる教科書裁判のほか、地道な住民運動が積み重ねられてきたと聞く。日本国憲法に沿った教科書を採択することを求める市議会への請願や、教員の意見を尊重せよと求める要望署名などを集めるなどの取り組みが進められていたという。

今回育鵬社を採択阻止できたことは、そういう取り組みが実を結んだとも考えられる。

教科書採択は8月いっぱいかけて実施される。育鵬社がらみでは、8月24日の大阪府東大阪市(2011年以降公民教科書を採択)、8月25日の大阪市(2015年に歴史・公民を採択)や、8月最終週に順次おこなわれる愛媛県のいくつかの採択地区での動向が山場となっている。また非公開として審議されている地域での採択結果も気がかりである。
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