2021年度から使用予定だった育鵬社中学校社会科公民的分野の教科書に写真の無断掲載があったなどとして、写真の被写体となっていたNPO団体が抗議をおこなっていた問題で、当該団体は2020年10月5日までに、育鵬社への法的措置を取りやめる意向を示した。

問題となった写真を育鵬社が差し替えるなど、一定の措置がとられたことを理由としている。

写真掲載問題の経過


問題となったのは、育鵬社公民教科書の「『子どもの貧困』と『子ども食堂』」と題するコラム。そこには、滋賀県守山市のNPO法人が2012年4月、同市内で小中学生向けの無料学習塾を開き、大学生ボランティアが子どもに勉強を教えている写真が掲載されていた。

写真は、その様子を取材した朝日新聞の記者が撮影したものだという。育鵬社は朝日新聞社のデータベースから写真を購入して使用した。

しかしその写真は、被写体となったNPO法人関係者の承諾なしに無断掲載されていたものだった。朝日新聞社データベースの利用規約では、朝日新聞社は被写体の肖像権を有していないとして「二次的な利用の許可、許諾はユーザーの責任と費用で行うもの」と記されていた。

無断転載だけでなく、コラムの内容も一面的だという点も指摘された。「子ども食堂」や「無料学習塾」を「貧困家庭の子どもが行く場所」と一面的に描いていると読める内容で、生徒への差別やいじめを誘発しかねない・必要としている子どもが行きにくくなることも考えられるという懸念が出され、批判が起きた。

さらに当該コラムでは、写真の解説に付けた地名の「滋賀県守山市」を「愛知県守山市」と誤記し、そのまま検定を通過して見本本として提供されていたというミスも指摘されていた。

写真が掲載されていたことに気づいた当該団体が2020年9月7日、育鵬社に抗議文を送付していた。対応次第では法的措置に踏み切ることも検討するとも通知していた。

育鵬社によると、ほかにも無断掲載写真などがあったことから、当該写真も含めて写真の差し替えをおこなうなどの措置をとったという。文部科学省にも訂正申請をおこない、来年度に生徒の手に渡る教科書からは問題の写真は削除されることになる。また各教育委員会などに配布した見本本については、シールで当該写真を隠すなどの対応を要請しているという。

育鵬社の教科書については、政治的なプロパガンダ押しつけが優先で記述の内容が極めて一面的になっていることで、授業や受験などにも支障をきたすなどと指摘された代物である。それに加えて、写真の無断掲載などという、内容以前のところで致命的な行為があったということにもなる。

写真差し替えなどは当然すべき最小限の措置ではあるが、そもそもこういうずさんな編集態度は問題ではないか。
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