大阪市会は2020年12月3日に教育こども委員会を開き、大阪市立の高校を府立に移管する「大阪市立学校設置条例の一部を改正する条例案」を審議した。

維新が賛成し、共産が反対した。一方で自民・公明の両党が「態度留保」を表明し、この日は採決に至らなかった。12月9日に改めて委員会を開催し、態度表明することにした。

質疑の内容


質疑では、市立の高校を大阪府に移管することで、市の財産を府に無償譲渡することで損失になる、また教育条件の低下につながるのではないかなどといった点について、議論がおこなわれた。

高校の移管については、敷地や校舎などを無償譲渡する構想となっている。そのことは市にとっては重大な損失だと指摘された。

また市立高校には学校図書館の専門職員が配置されているが、府立高校では橋下府政時代に専門職員を削減したことで現在は配置されていないことで、その職員の待遇をどうするのかという質問も出された。

また2016年度に大阪市から大阪府に移管された特別支援学校で、市独自で手厚く配置していた教職員が府の基準にまで減らされたことも指摘し、教育条件の確保ができるのかなどという指摘がされた。

大阪市立の高校では実業教育を中心に、大阪府と棲み分けてきた歴史があるのに、府に移管する理由はないとも指摘された。

さらに、「大阪市廃止・特別区設置」(いわゆる「大阪都構想」)が2020年11月1日の住民投票で否決されたばかりなのに、大阪市存続の民意を無視してこのような議案を出すことがおかしいとする指摘もされた。

政令指定都市では全国20市中相模原市を除く19市で市立高校を設置しているが、政令指定都市立から都道府県立に移管された例は確認されていないことも明らかになった。

松井一郎大阪市長や大阪市教育委員会の担当者は「府としてのスケールメリットを生かす」「教育条件の向上」などと答弁に終始した。

府立移管には道理がない


大阪府の高校が府立と市立に分かれているのは、明治時代の取り決めで、大阪市内における中等教育について、旧制中学校や高等女学校の普通教育は大阪府が、商業学校などの実業教育は大阪市が中心となっておこなう役割分担ができ、それが後身の新制高校にも受け継がれた歴史でもある。

歴史的経過や必要性があってそうなってきたものであり、実際にこれまでも何の支障もなかった。

2010年代になり、「大阪市が持っている権限を大阪府がむしり取る」として政令指定都市・大阪市廃止を狙う、いわゆる「大阪都構想」を掲げる維新が現れて、大阪市の事業や権限を奪うために、学校・図書館・社会教育施設・公立病院・公衆衛生・港湾などあらゆるものに「府と市でそれぞれ類似事業をおこなっているのは二重行政」と難癖を付け、高校も「二重行政」のやり玉に挙げられるようになったというだけである。「問題がある」というのは事実ではなく、維新が勝手に言い立てているだけに過ぎない。

いわゆる「大阪都構想」はすでに2015年5月・2020年11月の2度の住民投票で明確に否定されている。にもかかわらず、その民意を無視してなし崩し的に、大阪市の財産や権限・事業などを大阪府に「一元化」しようとすることはおかしい。

また大阪府に移管された場合は、府の条例によって大幅な統廃合対象となる可能性も出ている。すでに現大阪市立の工業高校3校について、府移管後の統廃合の構想が打ち出されている。

また大阪市の財産を無償譲渡することも重大な問題となる。

大阪市ではすでに、長年の教育実践の歴史を持ち、経験の蓄積としても設備面でも大阪府を大幅に上回っていた、特別支援学校が大阪府に移管されて教育条件が低下したという実例がある。そういうことの二の舞にもなりかねない。
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