大阪市での緊急事態宣言に伴う「一部オンライン授業」や学力テストの問題について、大阪市立小学校校長が実名で大阪市長あてに「提言書」を出した問題。この問題で、弁護士らでつくる「自由法曹団大阪支部」と、法学関係の研究者・弁護士などの法律関係の実務家・労働組合・市民団体などでつくる「民主法律協会」は2021年6月2日、当該校長への処分をおこなわないように求める要望書を松井一郎大阪市長宛に提出した。

「提言書」問題の経過


「オンライン授業」については、松井一郎大阪市長が市教委の頭越しに記者会見で実施方向性を発表した経緯がある。市教委も松井市長の記者会見に合わせるような形で、松井市長の当初案を多少修正したものの「自宅でのオンライン学習のあと、小学校は3時限目途中にあたる10時30分前後、中学校は昼12時頃に登校し、給食と対面指導を実施」といったモデルを示す形で「一部オンライン授業」を導入した。

しかし市の回線の状況により、全市一斉には実施できず、実施日を地域ごとに交代で割り当ててほかの日はプリント学習などの状況も生まれていた。また機器の設定のみに時間を取られたり、回線状況が悪くて接続まで十分にいかないなどで、実際にはほとんどできなかった事例も少なからず生じたともされている。一部の学校では、学校側の独自の判断として、市教委の了承を得た上で、市教委が示したモデルの日程ではなく、朝から登校させて短縮授業を実施するなどの対応を取ったケースもあった。

これらの状況で混乱が生まれたことについて、ある市立小学校の校長が現場の実態を訴え、一部オンライン授業の問題や学力テストの問題を中心に、子どもたちの学びを保障するように求める「提言書」を、2020年5月17日付で市長宛に送付していた。提言書の内容は狭義のいわゆる「政治的な内容」などではなく、あくまでも学校現場の実態を訴えるものとなっている。

松井市長は2020年5月20日、「提言書」について報道陣から問われると、「自分には校長を処分する権限はない」などとしたものの、「校長の意見とは違う」「校長だけど現場が分かってない。社会人として外に出たことはあるんかなと思いますね」「疲弊してやりがいが見つけらないんやったら、違う仕事を見つけたらいい」「現場が市長に意見を言う事自体はかまわない。ただ、組織の中なので、組織の一員としてルール通りに運営してほしい」などと非難した。

同日に開かれた大阪市会教育こども委員会では、維新の杉村幸太郎市議が校長の「提言書」を問題視して攻撃する質問をおこない、市教委も「同日の議会質疑までの時点では、当該校長に話を聴く機会を1度設けただけにすぎない」としながらも、校長の行為は職員基本条例に抵触する可能性があるとして引き続き調査をおこない、処分を検討していることを言明した。直後に質問に立った会派「自民・くらし」の太田晶也市議は、自身も議員になる前は教師だったと紹介しながら、「教育委員会としては、現場の先生の意見を聴くのが大事だと違いますか」などと、市教委の対応を厳しく批判する質問をおこなった。

要望書の内容


それらの経過を経ての、今回の要望書となる。要望書を出した団体は当該校長とは特に個人的な関わりはないということだが、市当局側の対応や市長発言は労働関係の法規にも抵触しかねないという法的な懸念についても指摘している。

https://www.minpokyo.org/information/2021/06/7848/

これに対して松井一郎大阪市長は2021年6月2日、報道陣に対して、「自分には処分の権限はない」としながらも、「ルールを守ることが大事」などという見解を繰り返した。

私見


この問題では、松井市長は「市長として教職員を処分する権限はない」という一般論を都合のいいときだけ振りかざしながら、実際は処分の方向に向かわせているのではないかという印象を受ける。

今回の問題の発端は、松井市長が市教委との事前のすりあわせなしにいきなり「オンライン授業」を記者会見でぶち上げたことが発端となっている。この問題では、松井市長や維新政治の現場を無視した「トップダウン」体質によって混乱が出たということになる。

維新政治ではこのほかにも、学校教育だけとっても、首長の一方的な指示・思いつきで混乱が起きたケースが複数生まれている。2020年度の大阪市立小学校入学式を松井一郎大阪市長が前日夜に突然「中止・延期」にした問題、2018年の大阪北部地震の際に当時の吉村洋文市長が一方的に「休校」を公表して混乱を招いた問題など。

http://kyouiku.starfree.jp/d/ishin-01/

教育委員会も首長の意向に追随する傾向も生まれている。確かに形式上は処分は教育委員会の権限になるが、松井市長の発言や維新市議の議会質問と、教育委員会が「処分を検討している」と表明したことはリンクしているようにみえる。形式上取り繕っていても、政治的圧力がかけられていると見なされるべきものだと感じる。

学校現場の現状を踏まえた意見・提言を踏みにじってトップダウン的な方針を押しつけることは、こどもや教育の実態に合わないものとなるという意味でも都合が悪い。さらに法的な立て付けや労働者の権利という意味でも問題が生じる。処分が強行されることがないように、徹底的に注視し、また世論を広げていく必要がある。
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