東京オリンピックの開会式の音楽担当にミュージシャン・小山田圭吾氏が起用されたが、小山田氏が過去に雑誌インタビューで、小学校から高校までの在学中のいじめを「武勇伝」的に話す内容が複数あったとして問題になった。大きな批判が起こり、小山田氏は開会式の音楽担当を辞任した。

「共同教育」といじめ


小山田氏は小学校から高校まで、私立の和光学園(東京都)に通っていた。同氏が、当時20代半ばだった1994年1月・1995年8月にそれぞれ、雑誌インタビューで語った内容によると、小学生時代から高校生時代にかけて障がいのある同級生へのいじめ行為を繰り返し、それを全く悪びれることなく「武勇伝」かのように扱っていると受け取れる内容があった。

雑誌インタビューによると、同級生への暴力や、服を脱がせて走らせるなどの性的虐待などがあったとされる。障がいを持つ同級生が年賀状を送ってきた内容を笑いものにしたり、和光学園の近隣にある特別支援学校の生徒をみて笑いものにするなどの行為もあったと、同氏が自ら話している。

和光学園では1970年代から、多様な障がいを持つ児童を受け入れ、通常学級でともに学習させる「共同教育」に取り組んでいる。小山田氏が在学していた1980年代にはすでに「共同教育」の取り組みがおこなわれていたことになる。

「日刊ゲンダイ」が和光学園に取材を試みている。同紙2021年7月22日付同紙『小山田圭吾“陰湿いじめの舞台“となった和光学園の「共同教育」とは…担当者に聞いた』によると、学園側の回答は、要約すると以下のような内容になっている。

  • 1970年代から「共同教育」に取り組んできた。

  • 報道されている内容に関連して学校側が把握している事実が仮にあったとしても、まず最初に考えるべきはいじめ被害者側の心情である。被害者側が「触れられたくない」と思っている可能性もある。

  • 30年以上前の当時のことを知る教職員はすでにいない。

  • これらのことから、現時点でのコメントは差し控える。


一方で、当時のいじめについて学校側が把握していたかどうかなどの記録が残っているかという質問に対しては、具体的な説明を避けたとされる。

ツイッターなどでは、和光学園の出身者だというアカウントから、「小山田氏と在学時期は違うが、自分の在学中も障がい児いじめがあった。しかし学校側は積極的に対応していなかった」と訴えるような内容が複数あった。

この個別案件での学校側の当時の対応については現時点ではわからない。一方で、「共同教育」を教育方針として掲げる学校でこのような障がい者差別・虐待と受け取れるようないじめ事件が発生し、しかも加害者とされる者が自分の過去の行為を反省するわけでもなく自慢げに話していたということは、重く受け止めなければならないだろう。

また障がい者だからということに関わりなく、いじめという行為それ自体が被害者の尊厳を著しく傷つけ、被害者には長期にわたって心身の後遺症を負わせ、被害者の将来にも重大なハンデを負わせる行為であるということである。その意味でも許されるべきことではない。

「昔の話」としてうやむやにするのは間違い


30年以上前の話だからといってもうやむやにすべきではない。昔のことを蒸し返してなどというような「擁護」をする者も現れているが、そういうのは的外れであり、加害者への加担と同じである。

「当時の時代背景」などとしてうやむやにしようという向きもあるようだが、当時の基準からみても許されざることである。

1986年に発生した東京都中野区立中野富士見中学校いじめ自殺事件を機に、いじめが大きな社会問題となった。さらに1994年に愛知県西尾市立東部中学校いじめ自殺事件をきっかけに、いじめが再び大きな社会問題となり、事件発生後数年間にわたってマスコミで大きくいじめ問題が取り上げられていた。

その間には、1991年に大阪府豊中市立第十五中学校生徒集団暴行死事件があった。事件のあった地域では当時、障がい児が普通学級でともに学ぶ「統合教育」を市単位で推進し、当時全国的にも障がい児教育実践の先進地と評価されていた。一方で被害生徒が障がいを持っていたことを背景としたいじめが継続的にあり、暴行死事件につながったと指摘されて、国会でも取り上げられ、また報道などでも大きく取り上げられた。大阪府での事件は、小山田氏の行為とも重なる部分がある事件となっている。

これらの事件は、小山田氏の在学中、ないしは雑誌インタビューに答えた時期と符合する。そんな「当時の時代背景」のもとで、いじめ、しかも障がいを理由にしたいじめを肯定し「武勇伝」にするというのは、当時の基準からみても異常な行為であったというべきものであろう。

被害者がいることでもあり、決して「昔の話」として扱うべきではない。
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