埼玉県の公立小学校に勤務する男性教諭(62)が、教員の時間外労働に残業代が支払われないのは違法だとして訴えた訴訟で、さいたま地裁は2021年10月1日、原告側の請求棄却の判決を出した。一方で判決では、公立校教員の給与に関する特別法(給特法)の改善が必要とする裁判長意見にも言及している。

原告側は「判決に一部画期的な部分があった」とした一方で、控訴する意向を決めている。

訴訟の経過


1971年に制定された給特法では、教員に対しては職員会議、学校行事、校外実習、非常災害時の「超勤4項目」とされる業務のみに時間外勤務を命じることができるとしている。時間外勤務手当を支給しない代わりに、4%の教職調整額が一律に上乗せされるとしている。

一方でそれ以外の業務については「自発的行為」とみなされて、いくら仕事をしても時間外労働とはみなされてこなかった。そのことが「長時間労働の一因となっている」とも指摘されてきた。

原告教員は2018年に提訴し、その後定年退職したが再任用教員として引き続き勤務している。2017年~18年におこなった、登校時の児童の見守り、テストの採点、草取りなどの時間外の作業は、超勤4項目に該当しない通常業務であり、労働基準法上の時間外労働にあたる。労使協定を結ばなかったのは違法であり、当該労働時間分の残業代相当額約240万円を求める、仮に残業代が認められなかった場合でも「違法な長時間労働を強いられたことによる精神的苦痛を看過してはならない」として同額の賠償を求めるなどと訴えた。

地裁判決での判断


地裁判決の判断では、職務を包括的評価した結果として教職調整額が支払われていると判断し、超勤4項目に該当しない業務について別途残業代を支払うべきとする原告側の主張を退けた。また原告教員が訴えた時間外業務の一部については校長の職務命令があったと認定したものの、最大でも月15時間未満だとして、国家賠償法上の賠償責任を認めなかった。

その一方で判決の「まとめ」では、「(給特法が)もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ず、原告が裁判を通じて社会に問題を提起したことは意義がある」「現場の教職員の意見に真摯に耳を傾け、働き方改革による業務削減を行い、勤務実態に即した適正給与の支給のために、勤務時間の管理システムの整備や、法律を含めた給与体系の見直しなどを早急に進め、教育現場の勤務環境の改善が図られることを切に望む」と言及した。

判決そのものは原告側敗訴となったものの、判決でここまでの言及がされているということを重く受け止める必要があると感じる。原告側は控訴するということだが、二審での審理とは別に、国会でも立法府の施策として、法律の見直しなどの具体的な措置に取りかかることを期待したい。
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