長崎市立小学校の教諭が、社会科見学で児童が提出した感想文をめぐって「無許可で校外に提供した」ことを理由として市教委から文書訓告処分されたことを不服として、2021年11月までに長崎市公平委員会に審査請求をおこなった。

長崎県と佐世保市が計画を進めているが、地元住民からは強い反対運動が起きている石木ダム(長崎県東彼杵郡川棚町)の建設予定地の見学だったことで、行政による政治的介入の疑いが指摘されているという。

経過


報道によると、経過は以下のようになっている様子。

教諭は2020年11月、自身が内容を主導する形で、当時の勤務校で自身の担任クラスを含めた6年の学年を引率して石木ダム建設予定地への社会科見学をおこない、住民に話を聴くなどの活動をおこなった。社会科見学の内容は、校長の了解を得ていたとしている。

住民の話を聴いた児童は学校に感想文を提出し、教諭は感想文を関係者に届けた。

感想文は児童氏名が特定されない形で、石木ダム建設工事反対を訴える市民グループのウェブサイトに一時掲載された。感想文の内容は、「県が必要もないのにダムを造っていると思った」などの趣旨だったという。

この経過を長崎市教委が「保護者や校長の了承なしに、感想文を校外に流出させた」などとして問題視した。また教諭が「調査に非協力的で、調査に応じるよう求めた校長命令に従わなかった」としたことも加え、長崎市教委は2021年7月、教諭を文書訓告処分にした。

教諭はこのことを不服として、2021年11月までに処分の無効を求め、長崎市公平委員会に審査請求をおこなった。

教諭や代理人弁護士らは「教育活動の中で協力してくれた関係先に児童の感想文を渡すことは、これまで慣例上容認されてきた。児童のプライバシーなどにも配慮している」「校長の指示に従わなかったというのは事実無根」「石木ダム問題を取り扱ったことへの報復であり、教育内容への政治的介入だ」と主張しているという。

政治的介入の疑いが捨てきれない


石木ダムの問題については、長崎県と佐世保市が「流域の治水、および佐世保市での水源確保」などとして1970年代から建設を計画し推進している一方、地元住民が強く反対して住民運動になっている背景がある。建設予定地には現在も立ち退きに応じない住民が住み、法的にはいつ行政代執行での立ち退きがおこなわれてもおかしくない状態が続いているという。

教諭への処分は長崎市であり、ダム推進主体の長崎県や佐世保市ではないものの、行政側が推進している主張とは異なる内容の感想文を児童が提出したことなどから、通常なら問題にはなりえなかった「関係者への感想文提出」を問題視して、「流出」といっているのではないかという疑いすら持つ。

近年の教育課程では主権者教育やアクティブ・ラーニングなどが重要課題として掲げられている。その一方で、行政の主張に沿わないと見なされたものへのこのような仕打ちでは、教育現場を萎縮させて「自粛」作用を生み出し、主権者教育やアクティブ・ラーニングをはじめとした教育活動の実施にも悪影響を与えかねないということにもなる。政治的介入と疑われてもやむを得ないかと感じる。
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