卒業式での「君が代」不起立で戒告処分を受けた経歴があることを理由に定年退職後の再任用を拒否されたことは不当だとして、大阪府立高校の元教諭が大阪府に対して約550万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪高裁は2021年12月9日、原告側請求を棄却した一審判決を変更し、大阪府に約315万円の損害賠償を命じる逆転判決を出した。

経過


元教諭は2012年と2014年にそれぞれ、「君が代」不起立で戒告処分を受けていた。2017年3月に定年退職を迎え、以後も引き続き再任用として勤務したい意向を持っていたが、大阪府から拒否されたことは不当だと訴えた。

定年退職直前の2017年1月には、勤務校の校長から「今後、国歌の起立斉唱の職務規律に従うか」と問われ、「回答できない」と返答した。このことで大阪府教委は「職務命令や規範に従う意識が希薄」として再任用拒否をおこなったとされている。

大阪府立高校では、希望を出した人はほぼ例外なく再任用されているとされる。原告の元教諭が再任用拒否された時期と同時期には、過去に生徒への暴力行為・いわゆる「体罰」によって原告元教諭よりも重い減給処分を受けた経歴がある別の人物が問題なく再任用されたことも指摘されている。近年に再任用が拒否されたケースは、「君が代」不起立がらみの事例ばかりともされている。

一審大阪地裁判決では、「任命権者の裁量」として原告側請求を棄却していた。一方で大阪高裁判決では、原告元教諭よりも重い処分を受けた人物が再任用されていることなどを指摘し、「府の判断は客観的合理性や社会的相当性を著しく欠いている」として一審判決を変更した。

判決内容は歓迎


大阪高裁で原告側の訴えが認められたことは、ほっとしている。

大阪府では維新府政になってから、学校現場への教育介入が大きく進んできた。そのひとつとして、卒業式での「君が代」起立強制をおこなう条例なども策定している。ある府立高校では維新府政によって採用された民間人校長(のちに大阪府教育長)が、斉唱しているかどうかの「口元チェック」をおこなったことがあった。別の府立高校では、卒業式来賓として出席した維新府議があいさつで祝辞をそっちのけに「不起立は残念」などと一方的なスピーチをおこない、さらにその一部始終をブログに掲載したことで、卒業生や保護者が「卒業式に水を差された」と抗議する事件も起きた。

再任用拒否についても、「君が代」不起立への見せしめ的対応の意図が強いとみられてきた。

「君が代」については歴史的背景などもあり、強制は思想信条や内心にも大きくかかわるものともなっている。国旗国歌法制定時の国会審議でも「強制は望ましくない」とされてきた経緯がある。強制することはおかしいし、しかも強制によって行政の意に沿わない教員を選別するための「踏み絵」に使っていることもおかしい。

「君が代」不起立での戒告処分は、それ自体が本来は処分されるべきではないことだったと感じる。少なくとも不起立が、生徒の人権を侵害し危害を加えるような行為で減給処分を受けた人物よりも「重罪」であるとは、考えにくいことである。

判決で大阪府の行為の道理のなさが一定程度認められたのは、歓迎だといえる。

一方で、判決によって一歩前進したとはいえども、全体的にはまだ「解決」したというわけではない。維新府政による条例での強制、大阪府教育委員会の姿勢など、まだ解決すべき課題があり、引き続いての取り組みが必要になってくる。
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