自民党は2022年2月4日に開催した「『こども・若者』輝く未来実現会議」で、子どもの権利を守る議員立法「こども基本法案(仮称)」についての検討をおこなった。

その中で子どもの権利を守るために設置が検討されている第三者機関「コミッショナー」創設をめぐって、右派的な議員から反対の声が上がり、意見集約に至らなかった。

報道によると、会議では以下のような声が出されたという。
 4日の実現会議では、城内実氏が同制度について「個人を大事にし、それを拘束するものは悪であるというマルクス主義思想があり、制度を作ったらそういう人たちばっかりだったみたいなことになる」と主張。山谷えり子元拉致問題担当相は「左派の考え方だ。恣意(しい)的運用や暴走の心配があり、誤った子ども中心主義にならないか」と訴えた。岸田文雄首相が実現を目指すこども家庭庁に「機能を集約すればいい」との意見も出た。
これに対し、賛成論も相次いだ。阿部俊子氏は「子どもの権利を守る機関を置かないと、党のイメージへの影響は破壊的だ」と指摘。山田太郎氏は「子どもの意見を聞きながらどういう問題があるか、現場からも解決できるルートを作っておこうということだ。マルキシストによって作られたものでは決してない」と反論した。

時事通信2022年2月5日 『自民、子ども第三者機関で紛糾 保守系「左派政策」と批判』

「個人を大事にし、それを拘束するものは悪であるというマルクス主義思想があり、制度を作ったらそういう人たちばっかりだったみたいなことになる」「左派の考え方だ。恣意的運用や暴走の心配があり、誤った子ども中心主義にならないか」などというのは、教育史や世界史の基本を真っ向から無視するレベルの、失笑ものレベルの主張だと言わざるをえない。

幅広く個人の権利や個人の尊厳を尊重することにしても、さらに子どもを大人の付属物などではなく権利の主体として扱う子どもの権利思想にしても、世界史の中でさまざまな潮流のもとで生まれ発展してきたものである。

マルクスの思想の中にも、その時代に児童労働がおこなわれていたことへの考察と、それへの対策としての児童労働禁止と教育権を掲げたという視点からの、子どもの権利に関する内容もある。もっとも、子どもの権利に関する思想や社会的潮流としてはそれだけにとどまらず、社会の実態や、古今東西の思想の中から多くの潮流が生まれて、多くの社会的・思想的立場が融合して集約されるような形で、子どもの権利概念が確立されていった経緯がある。それらの潮流の中で子どもの権利概念が発展し、世界的には「子どもの権利条約」などの形になっている。

「マルクス主義思想」「左派」と短絡的にまとめて、子どもの権利や個人の権利を論ずることが悪かのような印象操作は、見当違いだといえる。個人を個人として大事にしない方が、世界史の流れに反するものなのではないか。

もっとも反対論一色ではないことにも注目すべきではある。記事では山田太郎参議院議員の主張が紹介されているが、まっとうな意見だと感じる。こういういわば当たり前の中身でまとめていってほしいと願う。
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