2021年の福井県高校演劇祭で福井県内の高校の演劇部の劇が上演されたものの、地元ケーブルテレビで福井県立福井農林高校演劇部の創作劇のみ放送中止の措置がとられた事件があった。

この事件について、当該校の脚本を書いた元教員の外部指導員らが2022年2月10日、放送見送りをテレビ局側と協議した主催者の福井県高校文化連盟演劇部会に対して、「決定の撤回」「人権侵害に対する真摯な反省の表明」などを求めて、1万1849人分の署名を提出した。

事件の経過


福井県高校演劇祭では県内の高校の演劇部が作品を発表・上映することになっている。その様子は地元ケーブルテレビ局の番組でも放送されることになっている。

しかし2021年度、福井県立福井農林高校の演劇部が上演した創作劇「明日のハナコ」が問題視された。

脚本は長年同校の演劇部の顧問教員を務め、教員としては2020年度に定年退職したものの2021年度には外部指導員として同校の演劇部の指導に携わっていた人物が執筆した。2人の女子高校生が登場し、1948年の福井地震や県内の原発誘致問題など福井県の戦後の歴史に触れながら、よりよい未来社会を作りたいという思いを強めるというストーリーとなっているという。

新型コロナウイルス問題の影響で、2021年度の演劇祭は無観客でおこなわれた。その一方で例年通りに地元ケーブルテレビ局が、演劇の部分はノーカットで録画放送し、また各校の脚本集や上演時のDVDを作成して関係者に配布することになっていた。

しかし福井農林高校の劇の上演後、福井県高校文化連盟演劇部会やテレビ局が「差別用語にあたるものがある」などとして協議をおこない、番組では放送しない、当該校の脚本を非公開扱いにしDVDも作成しないという措置を決めた。

福井県内の原発問題について、1983年に高木孝一敦賀市長(当時)が原発誘致に際して差別的発言をおこなったという史実を、劇中のセリフで引用したことが「差別用語にあたる」「実在の人物への中傷になりかねない」などとされたという。また全体的に原発誘致に批判的と受け取れる内容だったことも問題視された。そのことで演者の生徒や学校への攻撃が生じることにもつながりかねないとして、この措置を正当化した。

福井県教委が紹介した「スクールロイヤー」が「差別用語であり問題だ」などとする見解を出したことも後押しとなった。

当該のセリフの一部は、以下のようになっているという。
小夜子 (略)「まあ原子力発電所が来る。電源三法の金はもらうけど、そのほかに地域振興に対して裏金よこせ、協力金よこせ、というのがそれぞれの地域にある。(中略)そんなわけで短大は建つわ、高校はできるわ、五〇億円で運動公園はできるわ。そりゃもう棚ぼた式の街作りができる。そのかわり一〇〇年たってカタワが生まれてくるやら、五〇年後に生まれた子供が全部カタワになるやら、それはわかりませんよ。わかりませんけど、今の段階で原発をおやりになった方がよい」
ハナコ それ誰。
小夜子 敦賀市長。石川県の志賀町で原発建設の話が持ち上がったときに地元商工会に招かれてしゃべったらしいのね。
(後略)

中日新聞2021年11月17日『高校演劇作品 公開せず 県高文連「せりふに差別用語」』 https://www.chunichi.co.jp/article/367209

これに対して、演劇関係者や弁護士などは「セリフは演者や脚本家が差別的な意図を持っておこなったわけではない。当時差別的発言をおこなった人物を批判的に紹介したものであり、差別にはあたらない」「政治家が公的におこなった発言への批評であり、個人への中傷と同一視する扱いにはなりえない」などと訴えていた。

脚本を執筆した元教員や支援者らは2021年11月、福井県高校文化連盟演劇部会に対して、措置撤回を求める要望をおこなっていた。しかし改善されないとして、署名活動をおこなっていたという。

その後部会側は、脚本や映像の非公開措置をやめたという。署名提出の際には、「解禁したのであれば、差別ではないと明確に表明すべき」とも申し入れた。

「差別」だとは言いがたい


この件は、作品制作サイドの「差別」だとはとうてい思えない。逆に主催者側の過剰反応、ないしは言いがかり的なものだと感じる。

現代の価値基準では「差別表現」とみられかねない用語が含まれる講演を引用したというだけで、しかもそれは批判的な見地からの引用だったにもかかかわらず、その単語だけを切り取って「差別」のレッテルが貼られることによって、むしろ作品制作サイドへの人権侵害が生じていることになっている。

これでは、作品制作サイドの表現を理不尽に制限されたことになる。またそれだけでなく、元々の差別的発言をおこなった人物を事実上擁護していることにもつながりかねない。どちらが「差別的」なんだかという印象すら受ける。

主催者側はそれまでの対応を改め、誤りを明確に認める措置をとるべきではないかと感じる。


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