横浜市立中学校での給食について、「デリバリー弁当方式」での全員喫食制を目指す方向で調整していると、毎日新聞2022年6月15日(ウェブ版)『中学給食、全員実施は「デリバリー方式」 横浜市・中間報告で有力に』が報じている。
横浜市では、歴代の市政が「愛情弁当論」などを根拠に給食に消極的だったことや、かつての急速な生徒数拡大による中学校増設などの際に教室不足解消や校舎建設などを優先したことで給食にまで手が回らなかったことなどの要因も加わり、長年中学校給食が実施されてこなかった。政令指定都市としては、中学校給食が実施されていなかった最後の自治体となっていた。横浜市は2016年度より市独自の配送弁当「ハマ弁」を導入したが、「ハマ弁」は家庭弁当を持参できない生徒へのセーフティーネット事業扱いで、給食とは位置づけていなかった。
中学校給食の実現を求める住民運動も粘り強く続けられていたことも背景に、横浜市は2021年4月、「ハマ弁」を発展的に扱う形で、選択制の中学校給食を導入した。
その後2021年8月には、全員喫食制の中学校給食導入を重点公約のひとつとして掲げる山中竹春市長が就任した。山中市長は就任後の所信表明で中学校給食の全員喫食制について「具体的な方法を検討したい」とする意向を示し、市として実施方法の検討を続けてきた。
2022年4月には中間報告がまとまった。各中学校に給食室を設置する「自校調理方式」、近隣の小学校の給食室で調理し中学校に運搬する「親子調理方式」、デリバリー弁当方式、給食センター方式を比較検討した結果、デリバリー弁当方式では、対応できる製造業者を増やすなどすることで3年ほどのもっとも短期間でできると判断したとして第一候補に挙げた。自校調理方式や親子調理方式では大半の学校で設備確保が困難で、市内の全校での実現には30年程度要すると試算した。また給食センター方式でも、市内の複数個所にセンター設置の必要があることから10年程度を見込むと試算した。
今後さらに詳細な検討を進め、2022年12月をめどに最終報告をまとめるとしている。
デリバリー弁当方式は導入がほかの方式と比べて比較的容易だとされる一方で、提供される給食の内容については問題が指摘されている。
横浜市では選択制の現行方式でも、以下のような内容が指摘されているという。
食中毒防止や衛生管理の観点から、おかずが冷やされすぎた状態で運搬されることで「おいしくない」と不評の声が上がるというのは、デリバリー給食を実施している自治体では指摘されてきたことである。
大阪市では、2012年9月に選択制のデリバリー弁当方式での中学校給食が導入されたが、「おかずが冷やされた状態でおいしくない」などとして不評で、利用率が低迷していた。そこに当時の維新・橋下徹大阪市長が、デリバリー弁当のまま全員給食制へと変更する方針を打ち出して2014年4月より変更したことで、問題点や不満が拡大して混乱を招く形になった。結局大阪市では、当事者の中学生も含めた批判の声に押される形で、2015年度2学期以降に学校調理方式(自校調理方式と親子調理方式の併用)での中学校給食を段階的に導入し、2019年度2学期になって学校調理方式での提供へと完全切り替えが完了した。
http://kyouiku.starfree.jp/d/osaka-city-jhs-lunch/
また神奈川県大磯町でも、中学校給食導入の初期費用を減らすとしてデリバリー弁当方式での全員給食を2016年1月に導入したが、大半の生徒がおかずを残すなどの状況が常態的になるなどして2017年に新聞報道されるなどして大問題となった。その後2017年10月に一度給食を中止し、自校調理方式での再開を目指して給食施設の建設などを具体化しているという。
大阪市や大磯町ではいずれも、「おかずが冷やされた状態で出てきておいしくない」という声のほか、異物混入などの問題も指摘された。
「デリバリー弁当方式での全員喫食」とする横浜市の方針では、大阪市や大磯町で問題になったことの二の舞にもなりかねないという気がする。導入を拙速に急ぐあまりに、生徒を傷つけるようなことになってしまうことや、結局はほかの方式を最初から導入していた方が安くついたなどの状態になってしまうことは問題だといえる。
「デリバリー弁当方式給食での全員喫食導入」は、一番の悪手だという気がしてならない。現時点では中間報告の段階で最終的な方針ではないが、最終報告までの間に何らかの修正がなされることが望まれる。
横浜市中学校給食をめぐる経過
横浜市では、歴代の市政が「愛情弁当論」などを根拠に給食に消極的だったことや、かつての急速な生徒数拡大による中学校増設などの際に教室不足解消や校舎建設などを優先したことで給食にまで手が回らなかったことなどの要因も加わり、長年中学校給食が実施されてこなかった。政令指定都市としては、中学校給食が実施されていなかった最後の自治体となっていた。横浜市は2016年度より市独自の配送弁当「ハマ弁」を導入したが、「ハマ弁」は家庭弁当を持参できない生徒へのセーフティーネット事業扱いで、給食とは位置づけていなかった。
中学校給食の実現を求める住民運動も粘り強く続けられていたことも背景に、横浜市は2021年4月、「ハマ弁」を発展的に扱う形で、選択制の中学校給食を導入した。
その後2021年8月には、全員喫食制の中学校給食導入を重点公約のひとつとして掲げる山中竹春市長が就任した。山中市長は就任後の所信表明で中学校給食の全員喫食制について「具体的な方法を検討したい」とする意向を示し、市として実施方法の検討を続けてきた。
2022年4月には中間報告がまとまった。各中学校に給食室を設置する「自校調理方式」、近隣の小学校の給食室で調理し中学校に運搬する「親子調理方式」、デリバリー弁当方式、給食センター方式を比較検討した結果、デリバリー弁当方式では、対応できる製造業者を増やすなどすることで3年ほどのもっとも短期間でできると判断したとして第一候補に挙げた。自校調理方式や親子調理方式では大半の学校で設備確保が困難で、市内の全校での実現には30年程度要すると試算した。また給食センター方式でも、市内の複数個所にセンター設置の必要があることから10年程度を見込むと試算した。
今後さらに詳細な検討を進め、2022年12月をめどに最終報告をまとめるとしている。
デリバリー弁当給食の問題点
デリバリー弁当方式は導入がほかの方式と比べて比較的容易だとされる一方で、提供される給食の内容については問題が指摘されている。
横浜市では選択制の現行方式でも、以下のような内容が指摘されているという。
ただ厳しい声もある。21年10月に山中市長が中学校を視察した際には、衛生上の観点から冷やして運ばれる給食のおかずについて、生徒から「温かい方が食べやすい」といった意見が上がり、「味が薄い」という感想もあった。さらに全員給食を求める二つの市民団体がデリバリー方式以外での実施を求めて署名活動を進めるなど反対の声も根強い。
毎日新聞2022年6月15日『中学給食、全員実施は「デリバリー方式」 横浜市・中間報告で有力に』
食中毒防止や衛生管理の観点から、おかずが冷やされすぎた状態で運搬されることで「おいしくない」と不評の声が上がるというのは、デリバリー給食を実施している自治体では指摘されてきたことである。
大阪市では、2012年9月に選択制のデリバリー弁当方式での中学校給食が導入されたが、「おかずが冷やされた状態でおいしくない」などとして不評で、利用率が低迷していた。そこに当時の維新・橋下徹大阪市長が、デリバリー弁当のまま全員給食制へと変更する方針を打ち出して2014年4月より変更したことで、問題点や不満が拡大して混乱を招く形になった。結局大阪市では、当事者の中学生も含めた批判の声に押される形で、2015年度2学期以降に学校調理方式(自校調理方式と親子調理方式の併用)での中学校給食を段階的に導入し、2019年度2学期になって学校調理方式での提供へと完全切り替えが完了した。
http://kyouiku.starfree.jp/d/osaka-city-jhs-lunch/
また神奈川県大磯町でも、中学校給食導入の初期費用を減らすとしてデリバリー弁当方式での全員給食を2016年1月に導入したが、大半の生徒がおかずを残すなどの状況が常態的になるなどして2017年に新聞報道されるなどして大問題となった。その後2017年10月に一度給食を中止し、自校調理方式での再開を目指して給食施設の建設などを具体化しているという。
大阪市や大磯町ではいずれも、「おかずが冷やされた状態で出てきておいしくない」という声のほか、異物混入などの問題も指摘された。
「デリバリー弁当方式での全員喫食」とする横浜市の方針では、大阪市や大磯町で問題になったことの二の舞にもなりかねないという気がする。導入を拙速に急ぐあまりに、生徒を傷つけるようなことになってしまうことや、結局はほかの方式を最初から導入していた方が安くついたなどの状態になってしまうことは問題だといえる。
「デリバリー弁当方式給食での全員喫食導入」は、一番の悪手だという気がしてならない。現時点では中間報告の段階で最終的な方針ではないが、最終報告までの間に何らかの修正がなされることが望まれる。