東京都で2022年11月に中学校3年の生徒を対象に実施した中学校英語スピーキングテスト「ESAT-J」では、あらゆる角度から問題が指摘され、試験としてまともなものにはなっていないという批判が起きている。

この中には、「クラスの生徒の前でおこなうスピーチという設定で、英文を読み上げる」という課題の設問で、中学校段階では学習しない文法事項が含まれた文章が出されたという指摘がされている。

問題となった英文は、
You may have seen that there's a new tea shop next to our school.

(学校の隣に新しいお茶屋があるのを、みなさんも見たことがあるかもしれません。)

文法的には「may have seen」という、助動詞と完了形の組み合わせという文法事項。この文法事項は、高校段階での学習内容になる。

東京都はスピーキングテストの出題範囲について「中学校学習指導要領の範囲」だとしたが、逸脱していると指摘された。

しかし批判に対して東京都教委は、「それぞれの単語は中学校で頻出単語」「一部の教科書にこの文法事項が入った表現がある」などと主張し、問題はないと指摘した。

東京都の主張は、無理筋の強弁だと感じる。

前者については、確かにそれぞれの単語一語一語は頻出でも、読むということになるとそれぞれの単語だけでなく、文章全体の意味を理解していなければどうしようもないことになる。単語を一語一語読めても、この文章だとhaveとseenの間に変な間が開くと、減点となる可能性もあるということになってしまう。単語が読めれば文章を読むことに支障がないというのは、強弁だというべきものである。

学習塾や英会話教室などで独自に発展的な内容を学んでいるなどの背景があったり、英語がものすごく得意で勘がよい生徒には、意味を把握できるのかもしれない。しかし中学校3年対象のテスト、しかも入試にも影響するものとなると、学校での学習内容以外のところで差が付きかねないということは非常にまずく、不合理ということになる。多くの生徒にとっては戸惑ったであろう。

また「一部の教科書」で「助動詞+完了形」の文法事項を含む構文があると指摘された件であるが、ある社の教科書に付録として、ジョン・デンバー(John Denver)の楽曲「Take me home,Country Roads」(カントリー・ロード)が収録されていて、その歌詞に「助動詞+完了形」を含む表現である「I should have been home」の歌詞があることを指しているのではないかと指摘されている。

https://www.youtube.com/watch?v=1vrEljMfXYo

当該の楽曲のみならず「英語の歌・洋楽」については、多くの中学校英語教科書で付録として掲載されている。しかし、本文で文法事項をきっちりとおさえるようなものと違い、付録教材である歌の扱いは、学習のウォーミングアップや動機付け・英語の音に慣れさせる・文化理解などの目的で流すなど、現場の裁量となっているようである。必ずしも「発展的な文法事項・読解内容」として本文と同等の扱いで学習しているというわけでもないようである。これをもって「掲載されているから問題はない」と強弁するのもどうなのか。

そこを出題されると、ほかの教科書会社も「試験ででるなら、うちも盛り込まないと」となってしまうし、現場の教員も発展内容を指導することを強いられかねないということにもなる。さらに、当該教科書とそれ以外の教科書の採用地域で格差が出るということにもなりかねない。

やはり、この出題はまずいというべきものであろう。
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