大阪府立支援学校の教諭が2015年3月、卒業式で障がいのある生徒の介助をおこなったことを理由に「君が代」斉唱時に起立斉唱しなかったことで戒告処分を受けたのは違法だとして、当該教諭が大阪府に対して処分取り消しを求めた訴訟で、大阪地裁は2023年5月17日、原告の訴えを退ける判決を出した。
報道によると、当該教諭は2015年3月、障がいがあり車椅子に乗っている生徒の介助担当として卒業式に出席した。
「君が代」斉唱時には、周囲の生徒や保護者らが起立しているもとで、生徒が前年度の卒業式でも発作を起こしていたことを考慮し「周りの人がほとんど起立し、取り残される孤立感が発作につながりかねない」として、生徒に付き添う形で起立しなかった。
そのことで大阪府教育委員会は、過去にも当該教諭が起立斉唱に批判的な発言をおこなっていたことも加味し、免職警告付きの戒告処分をおこなった。当該教諭はこの処分を不服として、障がい者への「合理的配慮」などを指摘し、処分撤回を求める訴訟を起こしていた。
判決では教諭の主張を退けた。教諭が過去に起立斉唱を批判する発言をしていたことや、当日は当該生徒側から介助の申し出がなかったのに教諭が進んで介助を申し出たと認定したことを指摘したうえで、「不起立は式典の秩序や雰囲気を一定程度損なうもので、生徒への影響も否定できない」と判断したという。
判決の内容は報道の通りなのだろうが、その判決の根拠や経緯については疑問を感じる。
そもそもの問題として、不起立が式典の秩序や雰囲気を損なうほどの重大な行為だと判断することがおかしい。仮に実力行使で妨害しているとでもいうのなら話は別かもしれないが、当該教諭の行為はそこまで重大な案件でもないとみられる。しかも、歴史的な経緯などもあり、思想信条や内心にかかわるものでもあるので、より丁寧に扱わなければならない案件を、一方的強権的に起立斉唱を強制するような教育委員会・行政の対応こそが、疑問視されているという側面もある。今回のような判決は、妥当だとはとうてい思えない。
また今回の問題では、障がい者への合理的配慮の側面も問われている。被介助者のパニック発作を防ぎ寄り添うことが、処分に値することなのかということも問われた形になった。合理的配慮よりも起立斉唱させることが重要だとするような判決が妥当なのかは、検討と検証を要する案件だろう。
(参考)
◎【速報】「卒業式の国歌斉唱を不起立で懲戒処分は違法」 府立支援学校の教諭の訴え棄却 大阪地裁(よみうりテレビ 2023/5/17)
事案の経過
報道によると、当該教諭は2015年3月、障がいがあり車椅子に乗っている生徒の介助担当として卒業式に出席した。
「君が代」斉唱時には、周囲の生徒や保護者らが起立しているもとで、生徒が前年度の卒業式でも発作を起こしていたことを考慮し「周りの人がほとんど起立し、取り残される孤立感が発作につながりかねない」として、生徒に付き添う形で起立しなかった。
そのことで大阪府教育委員会は、過去にも当該教諭が起立斉唱に批判的な発言をおこなっていたことも加味し、免職警告付きの戒告処分をおこなった。当該教諭はこの処分を不服として、障がい者への「合理的配慮」などを指摘し、処分撤回を求める訴訟を起こしていた。
判決内容への雑感
判決では教諭の主張を退けた。教諭が過去に起立斉唱を批判する発言をしていたことや、当日は当該生徒側から介助の申し出がなかったのに教諭が進んで介助を申し出たと認定したことを指摘したうえで、「不起立は式典の秩序や雰囲気を一定程度損なうもので、生徒への影響も否定できない」と判断したという。
判決の内容は報道の通りなのだろうが、その判決の根拠や経緯については疑問を感じる。
そもそもの問題として、不起立が式典の秩序や雰囲気を損なうほどの重大な行為だと判断することがおかしい。仮に実力行使で妨害しているとでもいうのなら話は別かもしれないが、当該教諭の行為はそこまで重大な案件でもないとみられる。しかも、歴史的な経緯などもあり、思想信条や内心にかかわるものでもあるので、より丁寧に扱わなければならない案件を、一方的強権的に起立斉唱を強制するような教育委員会・行政の対応こそが、疑問視されているという側面もある。今回のような判決は、妥当だとはとうてい思えない。
また今回の問題では、障がい者への合理的配慮の側面も問われている。被介助者のパニック発作を防ぎ寄り添うことが、処分に値することなのかということも問われた形になった。合理的配慮よりも起立斉唱させることが重要だとするような判決が妥当なのかは、検討と検証を要する案件だろう。
(参考)
◎【速報】「卒業式の国歌斉唱を不起立で懲戒処分は違法」 府立支援学校の教諭の訴え棄却 大阪地裁(よみうりテレビ 2023/5/17)